週刊ベースボールONLINE


 

チーム4戦目で今秋初登板となった国学院大1回戦(2点を追う8回に3番手)では3四球を与え、アウトは犠打一つのみと、不本意な投球に終わっている。残り3カードでのトルネード左腕の巻き返しに期待だ(写真=川口洋邦)



悩めるトルネード


「島袋は、制球難から復調したのか?」。現状を見極めようと、スカウトたちが神宮のネット裏で、スピードガンとビデオを構えていた。

 9月9日、東都大学リーグ開幕から2週目の国学院大1回戦でのこと。亜大との開幕カードでは登板を見送っていた中大のエース左腕・島袋洋奨(4年・興南)が8回、0対2とリードされた場面で今季初登板した。

 しかし、先頭から2者連続四球。犠打の後、再び四球を与えて降板し、小走りでベンチへ戻った。16球中12球がボールの判定。全球ストレートだったが、球速は140キロが1球だけで、そのほかは130キロ台だった。その内容に、島袋は表情を曇らせた。

「なんとも言えないですね。課題しかないけど、(神宮のマウンドで)投げたことはマイナスにはならないと思う。何とかしていきたい」

 2010年、甲子園で春夏連覇を達成したトルネード左腕は、中大に進学すると、入れ替わりで卒業した澤村拓一巨人)から背番号「18」を受け継いだ。1年春に中大のルーキーとしては48年ぶりに開幕投手を務めるなど、3年秋までに36試合に登板して11勝17敗、防御率2.33。4年になって主将に就任し、背番号「1」を背負った島袋は、ラストイヤーを前に「このままの成績でプロへ行けるとは思っていない」と気を引き締めていた。ところが……。

 最速150キロの真っすぐを軸に、スライダー、ツーシームで打者を抑え込むのが、島袋本来の投球パターンである。

 4年春にはそれがまったくできなかった。6試合に登板して0勝2敗、防御率6.75。亜大2回戦では2回に5連続四死球を与えて降板。駒大1回戦では初回に2つの押し出しを含む3失点で交代を告げられた。

 与四死球率が10個を超えるほど制球に苦しみ、初の未勝利で終えた春のシーズンが終わると、「自分の投球は0点」と固い表情で話した。「どうしたらいいか、分からないということもあった。でも、シーズン中はそういう姿を見せられないと思っていた。もう一度整理して、一段ずつ段階を踏んで調整したい」

 春のシーズンの途中から、ブルペンではカーブを多投し、全身を使って投げることを意識してきた。

 その調整の成果で、今夏のオープン戦では復調の兆しを見せる。8月19日の巨人とのプロアマ交流戦では6回1失点、8月31日の上武大戦では5回1失点。秋季リーグ戦開幕を前に、島袋は笑顔を取り戻していた。「調子はだんだん、上向いています。この秋は『終わりよければすべてよし』というくらいの気持ちで思い切った投球をしたいですね。結果はそのあとについてくると思います」

ようやくスタートラインに


 そうして迎えた秋の初登板だった。この結果を、周囲はどうとらえているのか。誰よりも島袋を知る慶田城開(4年・興南)に聞いた。慶田城は島袋と小学校時代からの幼なじみで、興南高では二番・センターとして活躍。ともに中大に進み、現在は学生コーチ兼副主将を務めている。

「周りからは『まだまだ、だ』と言われると思う。でも、自分としては洋奨が神宮で投げられたこと自体が大きいと思うんです。やっとスタートラインに立てたという感じです」

 気になるのは、卒業後の進路だ。秋田秀幸監督(元中日)は明かした。

「社会人のチームが、ドラフトの結果待ちで獲得してくれると言ってくれている。プロ志望届を出すかどうかは、島袋本人がこの秋のシーズンを過ごして自分で決めるでしょう」

 島袋本人は、2カードを終えた時点(9月12日)での胸中を語った。「プロ志望届を出すか出さないか、迷っています。今の状態と、進路を照らし合わせて考えています。今の状態で、プロから声がかかるかどうか……。形として見せないと、(ドラフトでの指名は)ないと思います」

 この秋が、プロ入りへの試金石となる。プロ志望届(NPB対象者)の提出期限は10月9日。中大は、それまでに駒大、拓大と対戦する。そこで、どんな投球を見せるのか──。トルネード左腕の復活を、誰もが待ち望んでいる。

取材・文=佐伯要

中大では主将(東都のキャプテンナンバーは1)を務め、全体を見渡さないといけない立場にある。開幕から亜大、国学院大と春の優勝、2位校から勝ち点を挙げ、04年秋以来の優勝へチームは快調に走っている(写真=神山陽平)



PROFILE
しまぶくろ・ようすけ●1992年10月24日生まれ。沖縄県出身。173cm71kg。左投左打。志真志小2年時に志真志ドラゴンズで野球を始め、同チームから分かれた志真志ドリームズを経て、嘉数中では県大会出場。興南高では1年秋から主戦として2年春、夏と甲子園出場も初戦敗退。3年春はセンバツ初優勝を遂げ、同夏は県勢初の全国制覇が史上6校目の春夏連覇となった。甲子園通算13試合、11勝2敗、防御率1.63。中大では1年春から先発の一角を任され、3年秋までに11勝。最終学年は主将も4年春は初の未勝利。東都大学リーグ通算43試合、11勝19敗、防御率2.64(9月12日現在)。
特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング