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背番号は西武、レッドソックス時代に背負い続けていた18に決まった



平成の怪物と称され、日本球界のエースへと上り詰めた松坂大輔。2007年、メジャーへと活躍の舞台を移したが、苦難も味わった。そして、来季から再び日本球界へ。数多くの経験をし、ひと回り成長を果たした右腕が新天地、ソフトバンクで輝く。
文=梶原昌弥(フリーライター) 写真=湯浅芳昭

胸に響いた強い熱意


 笑みの奥に強い意志を隠しているように見えた。12月5日、福岡市内のホテルで行われた入団会見。王貞治会長の横で、松坂大輔は丁寧に言葉を選びながら日本球界復帰に懸ける決意を語った。「みなさんの期待に応えなければならない。その期待に応える自信があるので日本に戻る決断をしました」

 明快に答える松坂の表情は最後まで晴れやかだった。「これまでずっと先発でやってきた。先発ができるという気持ちがある間は、ずっと先発にこだわってやっていきたい」

 この曲げることのできない“強いこだわり”がモチベーションであることは松坂自身がよく分かっている。それを叶えられる最高の環境を選んだ。「かなり悩みましたが、最後は、いずれは、日本に戻って終わろうと思っていました」と自分に言い聞かせたのは、この新天地で“逃げ場”がないことを感じ取っているからだ。

 来季、先発ローテーション入りできる保証を得られているわけではない。2011年6月に「この先、1年でも長く現役で投げ続けていくために」と米国で右ヒジ腱移植手術を受けたものの、その後の3年間はメジャーで振るわなかった。その不本意な結果を背負って日本球界への復帰を決めたが、8年間プレーしたメジャーとの“決別”は、言い換えれば松坂の潔さでもある。

 入団交渉の過程でソフトバンクの熱意は松坂の胸に響いた。そこには「本社と球団が一体になって世界一のチームを目指す。それが私の使命」とする孫正義オーナーの大方針に共鳴した思いがあった。その意向を最も理解し、オーナーから大きな信頼を得ている後藤芳光球団社長が、早い段階で松坂獲得のGOサインを出していたといわれる。もちろん孫オーナーの球団経営に懸ける情熱を知り尽くす王会長も、松坂獲得への支援を惜しまなかった。

「世界一のチームを目標にしていくんだな、ということを強く感じました。そこにすごく(球団の)魅力も感じた。最初から僕に対する獲得したいという信念にまったくブレがなかった」と話した松坂は、日本一球団のソフトバンクホークスについてさらにこうも言った。「会社、球団としての姿勢に感銘を受けました。ここでやりたいと思いました。その力になりたい」

 ここまで松坂を惹きつけた一つの要素が、獲得に全力を挙げたフロント陣の“交渉力”にある。関係者によると、松坂は王会長からも直々に球団の並々ならぬ経営意欲について熱い口調で語り掛けられたという。孫オーナーの思いを代弁する、その言葉の数々は球団の総意だった。ソフトバンク入団を自らの意志で最終決断した裏には、松坂が今でも8年前の感謝の気持ちを忘れていない王会長の存在があった。

昭和の気質を持つ右腕


「1年間しっかり自分のやれるものを出せれば、タイトルや数字などもついてくる」と記者会見では自信を見せた



 8年前の2006年。第1回ワールド・ベースボール・クラシックで王会長は日本代表監督だった。そして、松坂は日の丸エースとしてフル回転しジャパンを世界一に導いた。自らMVPに輝いた大会後に「日本が世界一であるのを証明できて満足です。これまで数多くの国際大会で(先発して)投げてきましたが、その経験をフルに生かして力を発揮することができた」と振り返っている。松坂の気骨を感じ取り、WBCで不動のエースに位置づけすべて実践したのが王監督だった。

「王監督が最後まで僕を信じて使ってくれた。僕が力を出し切れたのも、そのおかげです」

 帰国後、そう松坂が実感を込めて話したことがある。同年オフに怪物はメジャー・リーグ、レッドソックスと巨額契約を交わして海を渡った。メジャー時代の後半に試行錯誤した苦難を経て日本へ帰ってきた。松坂の心に染み込んだソフトバンク球団の熱意。それが孫オーナーの確固たる経営ビジョンと、松坂の心情を理解している王会長の存在だった。

 3年総額12億円+出来高の破格待遇で入団した松坂に求められるハードルは高い。「本当に日本で復活できるのか?」。今、賛否両論がある中で、松坂の頼れる先輩として西武で8年間を一緒に過ごした石井貴氏(現野球評論家)は、プロ1年目からエースの存在感を示してきた後輩の頑固な反骨心を知っている。

「彼はね、西武のときに平成の怪物なんて呼ばれたが、実はそうじゃない。投げる姿勢は昭和の気質ですよ。本当に昭和の匂いがプンプンするピッチャー。チームのために投げ抜ける。身近にいていつも思っていた。競争して先発を勝ち取ればいい。最後の生き様をホークスで意地でも見せてもらいたい。元メジャーの力を見せつけることが、球団の期待に応えることになる」

 来季から指揮を執る工藤公康新監督もメジャー帰りのベテラン右腕を特別扱いしない考えだという。来年9月に35歳を迎える松坂が、最後の働き場所に選んだホークスで再び輝きを取り戻せるのか。先発を貫きたいという怪物の譲れないこだわり。それを結果で証明するための闘いは、すでに始まっている。

松坂大輔の年度別投手成績
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