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DeNAの躍進を支えているのが四番を打つ筒香嘉智。ここまで全45試合(5月22日現在)に出場し、打率.320、10本塁打、36打点とチームにとってまさに頼れる存在だ。プロ6年目の今シーズン、筒香が四番として飛躍を遂げた要因を探っていく。
写真=内田孝治

松井秀喜氏との対面


 筒香嘉智の進化を象徴する言葉だった。

「石川さんであったり、カジさんであったり……。前の打者が必死になって、塁に出ようとしている姿を見ている。だから、僕だけの力で打てているのではありません」 プロ初の満塁ホームランを放った、4月24日の中日戦(横浜)でのことだ。試合後、真っ先に口にしたのが一番・石川雄洋や三番・梶谷隆幸らへの感謝。DeNAの中心打者として、自覚と意識の高さを示した。

 プロ6年目のシーズンは、かつてない期待を背負って幕を開けた。

「あいつが本物になれるかどうか。俺の中では心中するつもり。人間的な成長も期待して、大きな肩書きを背負わせてみようと思った。王(貞治)さんのように、お客さんを呼べる選手になってほしい」

 中畑清監督は早々に、年間を通して四番で起用することを明言。石川に代わる主将としても、責任感を植えつけた。 昨年は111試合で打率.300、22本塁打、77打点と殻を破った。好成績に浮かれることなく、2015年へ向けた動きは早かった。通常なら体を休める時期にある11月30日。髪を短く刈り込み、大荷物を抱える若者が成田空港にいた。自主トレを行うため、アメリカ・ロサンゼルスへ出発した。

「ここでしっかり追い込んでおけば、来年のキャンプで入り方が違う。僕にオフはありません」 気合十分だった。現地での練習は午前8時から午後5時半まで。筋力アップを掲げ、3キロ増の95キロと締まったボディーで帰国した。

「143試合、チームの勝利に全試合、貢献します。そして、皆さんで優勝しましょう!」

 2月の沖縄・宜野湾キャンプ。初日の声出しでは、トップバッターで所信表明した。

松井秀喜が持つ雰囲気。何で松井秀喜なのか、それを肌で感じてほしかった」。

中畑監督の計らいで実現したのが、松井秀喜氏との出会い。真の四番、和製大砲として、歩みを進めている過程だった。 打撃練習ではすでに、逆方向の左翼から中堅、最後に右翼方向へと、順を追ってスイングする工夫をしていた。同じ左打ちの外野手。日米通算507本塁打の大先輩に「その練習は間違ってないよ。今の形を続ければ大丈夫」と背中を押され「松井さんは技術だけじゃなく、人間性も認められたから四番を任されたと思う。松井さんと過ごせる時間をムダにせず、内面も吸収したかった。自分のやってきたことに自信が持てました」と足取りを強くした。

「優勝しかないと思ってやっていく。143試合で周りが納得する結果、すごい成績を残して、チームに貢献したい」

 キャンプ、オープン戦と順調に過ごし、特別な気持ちで3月27日を迎えた。

「僕に携わっていただいた、すべての方に恩返しがしたい。その一番分かりやすい形が、ホームランや殊勲打だと思っています」

 東京ドームで行われた巨人との開幕戦。「四番・左翼」として、いきなり有言実行を果たした。

 3点を追う5回だった。それまで1人の走者も出せなかった先発・菅野智之に一発を食らわせた。初球、135キロのカットボール。フルスイングした打球が、右翼スタンドの上段に突き刺さった。「試合は待ってくれない。全員で成長できれば、間違いなくいいチームになると思います」 松井氏も観戦したこの試合は敗れたが、視線を落とさずにチーム全体へ向けたメッセージを発信。すると、開幕2戦目に大暴れした。

 打線が12安打10得点とつながり、今季初勝利を挙げた中で、主砲として4安打2打点をマークした。9回には、西村健太朗から2戦連続となる一発。しかも、豪快に右翼後方の看板へ当てる衝撃を与えた。

「負け試合で打っても意味がない」が口グセ。他球団からの徹底マークが心配されたが、それをまったく問題にしない、実に頼もしい姿だった。

得点圏打率.344はリーグトップ。勝負強い打撃でチームをけん引する(写真=BBM)



モデルチェンジから飛躍


 過去を振り返れば、苦しい道のりだった。名門・横浜高校で通算69本塁打を放ち、10年ドラフト1位で入団した。当時から「超高校級スラッガー」「ハマのゴジラ」と騒がれていた。ルーキーイヤーにプロ初安打が初本塁打となる離れ業。

 ところが、初めて規定打席に到達した12年に残した.218はリーグ最下位で、10本塁打、45打点と低迷した。一昨年は試合で.216、1本塁打、3打点。目を覆いたくなるような低迷だった。転機はシーズン終了後。中畑監督に秋季キャンプ(奄美大島)のメンバーから外されたことだ。

「悔しかったのと同時に、このままでは本当に終わってしまうと思いました」

 長年の課題として口酸っぱく言われてきたのが、直球を一発で仕留める技術の習得だった。「打率2割1分でクリーンアップみたいな顔をしやがって。ふざけるな」

 指揮官による荒療治と激辛コメントは、さすがに精神的にこたえた。しかし、危機感を最大限に引き上げたのも事実。大村巌二軍監督(当時)と二人三脚で、真剣に課題と向き合った。横須賀市内にある二軍のベイスターズ球場。長打狙いから、逆方向、ミート中心へモデルチェンジを始めたのも、この時期からだった。

 横浜高の先輩で、DeNA創設時の12年から3年間、キャプテンを務めてきた石川は認める。

「ゴウはゴウなりに悔しい思いをして、いろいろな苦労を経験してきた。ずっとチームメートとして見てきて、本当に野球が好きなヤツだなと思う。口数は多くないけど、誰よりも練習しているのは確かですから」

 午後6時開始のナイター(本拠地)では午前中に球場入りし、室内で正面からのティー打撃を始める。

「特に調子が良くないときには、自分のチェックポイントが分かる」(筒香)という練習方法。マシンにも向かい、すっかりルーティンとなった反対方向からの打撃練習を繰り返す毎日だ。

 パワーだけではない。対応力とテクニックを見せたのは、8対3で快勝した4月8日の阪神戦(甲子園)だった。初回一死一、二塁で右前へ先制適時打。4点リードの2回二死二塁では、中前適時打で5点目を奪った。5回にも右前安打を放ち、3安打2打点の活躍。すべて左腕・能見篤史のスライダーをヒットにし、大きな穴がないことも証明した。

 昨年はリーグトップとなる得点圏打率(.416)を残した。

「試合を決める一打にこだわっている」というコメントには説得力がある。石川、梶谷が前にいて、五番のJ・ロペス、A・バルディリスと続く打線は破壊力満点。中畑監督からも「ひと振りで決めてくれるあたり、さすが四番。本物って言っていいかもしれない」と全幅の信頼を寄せられ「試合前の円陣で発する言葉を聞いても、本当に頼もしくなったなと感じる」とリーダーとしての資質も日増しに備わってきた。

 打撃理論を交わし、プラベートで食事をすることも多いバルディリスは「ツツゴウはとにかく研究熱心だね。遠征ではボクが新聞紙でボールをつくって、彼に投げて打撃練習したこともあるよ。ボクがよく言ったのは、ステイバック。後ろ(軸足)に重心を残して打つことだよ」と証言した。

 実績やキャリア、国籍すら問わず、良いものは良いと取り入れる向上心。数字が残るのには理由があるし、侍ジャパンを率いる小久保裕紀監督も「彼は間違いなくひと皮むけた」と充実ぶりには舌を巻く。

 ここまで全44試合(5月22日現在)に出場し、36打点と10本塁打はリーグトップ。打率.320は2位につけており、04年のダイエー(現ソフトバンク)松中信彦以来となる三冠王も夢ではない。もっとも、個人成績には「いいものが残るに越したことはないですが……」と謙虚で、あくまでも98年以来のセ・リーグ優勝が目標だ。

「いつも監督がおっしゃっている『あきらめない野球』は大事ですし、実際にいい雰囲気で野球がやれています。ムダな打席をつくらず、どうすればチームが勝てるのかを考えてやっていきたい」

 日本を代表する23歳。心技体、底知れない伸びしろに注目だ。

首位を走るチームでファンの声援を背に受けながら戦う(写真=川口洋邦)

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