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特別コラム「98年以来のハマ風があおる熱狂のハマスタへ」

 

文=山口愛愛、写真=大賀章好




 その瞬間、スタンドの歓声がひと際大きくなる。

「ウォオオオオ〜ヤスアキ!〜ヤスアキ!」

 メジャー・リーグやNBAなども盛り上げる一曲、「ゾンビ・ネーション」のリズムに乗り、登場するのはリーグトップの18セーブを誇るルーキーの山崎康晃。平日ナイターでも立ち見客でいっぱいのライトスタンドで若者が跳びはね、ハマスタは巨大クラブと化す。

「数年前までは、残業帰りでも余裕で座れたのに、こんなにファンがいたの? 席が取りにくくなったね」と苦笑いの会社員も。こんな光景は何年ぶりだろうか。

 指を折り、振り返るが、片手では足りない。連日、ハマスタが賑わったのは、38年ぶりの優勝に沸いた1998年前後。しかし、わずか4年後には最下位に陥落し、昨年までに最下位となること9度。「指定席」、「横浜銀行」の揶揄にも、地元の根強いファンは慣れていた。最終回に逆転され、山口俊に罵声が飛ぶシーンも、古くは弱小と呼ばれた大洋ホエールズの負け試合もいくつも観てきたのだ。

――太鼓がダダダと3つ鳴るのを合図に湧き起こる「ササキ! ササキ!」の大合唱。あれから17年。5月5日(ヤクルト戦、横浜)に、チーム唯一の優勝経験者、三浦大輔の勝利で首位に立ち、その後、98年以来の貯金10を記録。山崎康が投じる鋭く落ちるツーシームにバットが回ると、大魔神・佐々木主浩のフォークでリーグ優勝が決まった瞬間を思わず重ねてしまう。

 マシンガン打線が火を噴いた98年は神がかり的な逆転勝利も多かった。今シーズンの5月2日の中日戦(ナゴヤドーム)は、9回二死、筒香嘉智からの5連打で4点を奪っての大逆転勝利。多くのファンが口にする。

「今年は98年の雰囲気に似ている……」と。

 優勝時に「権藤クジラ」を胴上げしたイセザキ・モールの商店街には、横浜DeNAの勝敗表が飾られ、街行く人が足を止める。ハマスタ近くでファンが集う定食屋を営む「BAM・BAM番長」の店主は「7連敗して今年もか……と思ったけど、持ち直したし、僅差で競り勝つから、勢いとは違う本物の力を感じる。交流戦がカギかな。優勝セール、やりたいね!」と、街は早くもカウントダウンの雰囲気。「若い選手もファンも新旧交じっていいじゃない。この声援があれば今年こそ大丈夫」と常連のオヤジさん。

 98年以来の夢を観に、今日もファンは熱狂のハマスタへと足を運ぶ。

筆者プロフィール
山口愛愛(やまぐち・あいあい)●1974年生まれ。野球ジャンルを主としたフリーライター。横浜西口生まれ、横浜スタジアム育ち。ハマスタ開設1年目から通い、シーズンシートにてハマスタ主催のほとんどの試合を観戦。日体大で学んだトレーニング論を生かし、駒田徳広監修「バッティング最強のコツ60」をはじめ、野球技術論、ベイスターズ関連の取材、執筆多数。
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