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永遠のPL学園

名門校の現状と未来…PL学園が挑む聖地へのラストチャンス!?

 


さまざまなメディアで報じられているように、高校野球の超名門校が揺れている。甲子園では春夏合わせて7度の優勝を誇り、プロへ多くの名選手を輩出してきたPL学園。しかし、ここ数年は十分な指導体制を整えることができず、今春は新入生の部員募集が止まった。現状では甲子園を目指して本気で勝負できるのは、この夏が最後になる恐れがある。名門校が抱える光と陰を追った。
取材・文=谷上史朗 写真=石井愛子、太田裕史、川本学、佐藤真一、BBM

命運を賭ける今夏に追い風か!?


 6月26日に行われた大阪大会抽選の結果は瞬く間にネットの電波に乗って全国へ拡散した。

「大阪桐蔭と履正社が初戦(2回戦)で激突!」

 この夏の大阪大会の参加校数は180。抽選は北と南にブロックを分けて(北89校、南91校)行われたため北ブロックの両校が初戦で当たる確率は88分の1。ところが、その中でシード制を不採用の大阪とは言え、2強が初戦で当たったのだ。

 この結果に当事者たちもマスコミ関係者も高校野球ファンも驚いただろうが、一報を耳にして真っ先に浮かんだのはPL学園のことだった。“風が吹いた”と。

 PLは昨夏、秋と大阪大会準優勝、今春はベスト8で敗れたが、相手はいずれも大阪桐蔭。履正社には昨秋、劣勢の見方を覆し勝利しており、この1年、大阪では大阪桐蔭以外に負けていない。それがもし、2009年秋から7連敗中でもある難敵が早々に消えることにでもなれば……。

写真の四番・大丸を筆頭に、現チームは謝名堂、ネイサンなど強打者がそろう。甲子園には09年夏以来、遠ざかっている



 仮に大阪桐蔭が勝ったとしても2強のうちの一方が初戦で消える展開はPLにとって大きな利に違いない。抽選会の翌朝、あるPLのOBに電話を入れると「まさかですよ」と、電話口の向こうからすぐさま返してきた。「PLの甲子園出場の可能性が広がるためには、あの2つがどこかでつぶし合って……、と他のOBと話したこともありました。それが初戦で当たってどちらかが消えるわけですから、それはまさかですよ」 

 PLの選手、現場を預かるスタッフには他チームのことを考える余裕もないだろうが、OBの心境としては素直な思いだ。とにかく、今年の夏はいつにも増して負けられないのだから。しかし、その命運を賭けた戦いでPLは昨年に続き野球経験のない校長兼務の監督が指揮を執る。

 一昨年の秋から責任教諭としてベンチ入りし、その後、監督となっていた正井一真が今春退任。3月の練習試合で指揮を執り2度目の夏にも意欲を見せていたと思えた矢先、部関係者も寝耳に水の交代だった。

 ただ、後を任されたのも後任の校長で野球経験のない草野裕樹(野球部長として甲子園経験あり)。野球で知られる名門でこれだけの期間、指導経験のない者が監督としてほぼ試合のベンチにのみ入り続けるケースは異例中の異例。「他の学校なら間違いなく父兄が騒いでいる」という声をさまざまな場で耳にしたが、あらためてここに至った経緯を振り返る。

4月に草野裕樹新校長が新監督に就任。野球経験はないが、09年には部長として甲子園でベンチ入り



PL野球部員募集停止までの経緯

監督:河野有道
2013年4月:2月下旬に寮内での上級生の暴力が発覚、2月から数え6カ月間の対外試合禁止処分が下され、夏の大阪大会への出場辞退。4月末には河野監督辞任

監督:正井一真
2013年秋:後任監督が決まらないまま、正井一真校長が監督に就任。【秋季大阪大会】準優勝:決勝/●3-4履正社、【秋季近畿大会】1回戦/●2-3福知山成美

2014年春:「次期監督」の選定が迷走。実質、監督不在の状態が続く。【春季大阪大会】ベスト4:準決勝/●3-8大阪桐蔭 3位決定戦/●7-8大冠

2014年夏:正井校長がベンチに入り、甲子園まで「あと1勝」と迫ったが、決勝で大阪桐蔭の前に敗退。【選手権大阪大会】準優勝:決勝/●1-9大阪桐蔭

2014年秋:2014年10月秋季近畿大会の1週間前に、「PL学園廃部の危機」がスポーツ紙で報じられる。【秋季大阪大会】準優勝:決勝/●4-11大阪桐蔭、【秋季近畿大会】1回戦/●2-3近江

監督:草野裕樹
2015年4月:1日付で草野裕樹が新校長に、同時に野球部の監督に就任。1年生の部員募集が停止され、4月の新入部員は0人。【春季大阪大会】ベスト8:準々決勝/●1-8大阪桐蔭

2015年7月:3年生21人と、一般入試で入学した2年生12人で夏の大阪大会に挑む。選手権大阪大会】7月18日 2回戦〜対登美丘

すべての決定権を負う教団の過去と現在


 始まりは一昨年の4月。寮で上級生による下級生への暴力が発覚。当日とされる2月23日から6カ月の対外試合禁止処分が下され、春、夏の大会出場を辞退。4月末に当時の河野有道監督も辞任した。

 その後、秋の大会出場のため、野球経験のない正井一真校長が責任教諭としてベンチ入り。チームが近畿大会出場を決めると大会規則に従い正井が監督登録となったが、当初はあくまで応急措置と見られていた。しかし、年が変わっても次期監督が決まらない。さらにその後、秋の近畿大会開幕の1週間前には15年度の野球部員の募集停止が公となり、OBらの中にも一気に“廃部”の2文字が現実味を帯びて広がった。

 当初、次期監督が決まらない理由として条件面が噂されたこともあった。あるいは深い信仰心の有無が基準とささやかれたこともあった。

 しかし、「条件の話で言えばウチには年輩で気軽に動けるOBもいるし、若い中にも現状を見れば名乗り出るOBはいる。どう考えても今よりはいい」という声に頷いたものだった。しかし、動きはないまま、昨年12月にはOB会が「野球経験のある新監督の早期決定」と「新入部員の受け入れ再開」を求め学校に嘆願書を提出。それでも何ら教団側のアクションはなく、気づけば監督不在のまま2年が過ぎた。

 この動きの鈍さは何なのか……。

 教団の野球部を立て直す意欲の有無は問われて然るべきだが、取材を通し野球部を取り巻くさまざまな問題が透けて見えてきた。何よりも学校経営の問題だ。本体である教団も教会、信者が大きく数を減らす中、学校経営も年々厳しさを増している。

 今年の一般受験者数は28人で内部進学と併せても50数人。3学年で見ても220人程度の寂しさだ。00年代に入って以降、甲子園出場の際、名物応援だった人文字が生徒不足のため難しいと報じられたこともあった。

 部活動も野球同様、全国の強豪だった剣道、ゴルフ、バトン部などが次々に衰退。すでにしばらく前からさまざまな点に揺らぎが見え始めていたのだ。

 登りゆく勢いのあった1970年代後半の頃はおしえおや(教祖)の誕生祭には学校敷地内を使い全校生徒による壮大な焼き肉パーティーが開かれていたという。夏の全国制覇の後には、野球部の3年生全員でロス旅行に出たときもあった(修学旅行に試合の関係で行けなかったための代替と優勝の褒美を兼ねたもの)。

 また、研志寮で暮らす野球部員には日常的に豪華な差し入れもあった。あるOBは語る。

「西田(真二)さん、木戸(克彦)さんの時代は、テキ(ビフテキ)1人2枚がしょっちゅうだったと聞いてます。そのあと2枚が1枚になって90年代後半になると、たまのウナ丼くらいに……」

 笑い話のようで、時々の教団の状況、野球部に対する期待が伝わってくる。この頃の学内での合言葉は「勉強は東大!野球は甲子園!」。特に2代目のおしえおやは野球部への関心が高く、教団の中枢にも部を力強くバックアップする人物がいたという。

 83年に26歳の若さで後継となった3代目(現教祖)についてもある関係者は「野球は嫌いじゃなかったですし、球場まで試合を見に来られることもありました」と言った。ただ、「野球部も特別ではなく、いちクラブ活動というスタンスは3代目になった頃から少しずつ強くなった気はします」とも。その3代目が体を患い、業務を夫人らが執り行うようになって以降、さまざまな歪み、滞りも増えてきたようだ。

 学校の人事も含め決定権は理事ではなく教団トップが持つPL学園特有の難しさに加え、時代とのズレ……。ある者は、教団、学校が傾き始める中、まだ所々で“特別感”を残していた野球部に、批判的な感情が生まれていったのでは、と指摘した。そこへ野球部内の暴力問題などが繰り返し起き、いよいよフォローする者もいなくなった、と。

勝負できる最後の夏
その先に希望はあるか


実質的な監督不在の状況で、子どもたちだけでこれだけの成績を残している点は称賛に値する。“大人の事情”は選手には関係ない



 そして今。廃部の危機もささやかれる中、勝負の夏が迫る。部員数は現在3年生21人と2年生の12人のみ。2年生は一般入学の生徒で代々の選手たちとは大きな力の差があるだろう。

 その上、夏以降はケガ人が出ると大会参加も危うくなる人数。それを見越し、コーチ陣らが合同練習を他校に申し込むなど、新チーム後の姿はPL学園の野球部として相当なつらさを想像させる。その前に、この夏だ。勝ち進むことで何かが変わり、何かが動くことを願いつつも、多くのOBはこの先に訪れるかもしれない最悪の事態を覚悟していた。

 ところが、夏の抽選後、PLに関するいくつかの報道が出た。例えば、抽選会の直後、新入部員の募集再開について問われた池田秀男部長が「はっきりしていない。未定という段階」と話したというもの。

 あるいは学校関係者が「今の2年生が卒業した後(17年度)から新しい部員を受け入れる可能性があると聞いています」と語ったとされるもの。4月の時点で草野監督も「PLとしてキチッと活動できるようになればおのずと道は開けてくる」と語っていたが、後者の報道が真実なら、3カ月前の言葉もここへつながっていたのか……と希望的にとらえたくなる。

 ただ、風を感じた抽選結果に続き、存続、再建へ向け一筋の光を感じながら、現時点では教団上層部の意向は見えないまま。何より学校再建の明確なビジョンがない限り、野球部のこの先も見えてはこない。果たしてそこが描かれているのか。

プロで活躍する多くの選手も生活したグラウンド脇の寮。現在、この研志寮は使われておらず、野球部員は一般寮に入っている



 6月半ば、練習グラウンドを訪ねると26歳と若い千葉智哉コーチが硬い表情を崩すことなく語った。「『与えられた環境でどれだけのことがやれるのか、そこが試されてるぞ』。選手にはいつもそう言ってるんです」。チームとしては試合への入り、ベンチワークを選手間でも磨きながら、打線は1試合7点をノルマに春以降鍛えてきたという。

 間もなく始まる戦いの結果がどこへつながっていくのか。これまで幾度も土壇場の勝負を制してきた高校球界の王者、PL学園。耳慣れたあのフレーズのように……。“永遠の学園”として、その道は続いていくのだろうか。

注目の初戦は7月18日(土)。登美丘高と対戦を迎える



大阪大会展望
2強の壁に挑むチームは?


甲子園では昨夏優勝、今春センバツ4強。エース田中を中心にした大阪桐蔭が大本命だ


大阪桐蔭、履正社の2強時代が続く大阪。ただ、夏に限るとここ10年で甲子園出場6度の大阪桐蔭に対し履正社は1回。しかも夏の直接対決は8連勝中の大阪桐蔭が現在、大阪では30連勝中と盤石の強さを見せる。ただ、今年はその両チームが初戦で対戦。初戦特有の緊張感が戦いにどう作用するか。また、どちらが勝つにしても初戦で大ヤマを越えたあと頂点まで7戦を残す難しさもある。初戦からの2強対決で他校のチャンスは広がっただろう。この2つに続くのは春準優勝で投打とも力を持つ大阪偕星と昨夏以降、大阪では大阪桐蔭以外には負けなしのPL学園。PLは今の状況から、試合終盤まで競っていけばファンやOBの思いを乗せた“空気”が後押しするはず。一丸のチームカラーで春ベスト4の上宮太子に昨秋、今春と連続ベスト8の大塚も攻守に安定感がある。
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