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Vやで!阪神タイガース大特集

現地リポート まだまだ“半信”半疑の虎ファン

 

2005年以来となる優勝を目指して選手たちが戦っている中、阪神ファンが詰めかける甲子園はもちろん、ビジターの球場も多くのファンが足を運び、盛り上がっている。だが、地元の人々、街は阪神の進撃をどのように見ているのか。現地からのリポートをお届けする。

8月末に首位快走も盛り上がらない現状


 阪神が走っている。交流戦のおかげで一時は6球団の貯金がなくなるという状況に陥ったセ・リーグにあって、首位を快走。いよいよ10年ぶりの優勝が現実味を帯びてきた。

 とはいえ、ここ数年は終盤に失速する姿を見せているだけに、半信(はんしん)半疑とは言い古された下手なしゃれだけど、大阪、そして関西の阪神ファンのいまの気持ちは、それに尽きるのではないか。

 ホームゲーム前、甲子園球場の近くを歩けばファンの声が聞こえてくる。「優勝できるやろかな、いよいよ今年は?」「どうやろな。でも詰めが甘いからな」というセリフがよくつぶやかれる。そういう具合にどこかで不安を持ちつつ、期待を膨らませているのだ。

 しかし日常的に「阪神優勝」の高まりが感じられるかといえば、これが、そうでもない。

「甲子園に行ったら盛り上がるのはいつものことやけど、それ以外のとこで阪神どうなるかなーっ? ていう話はあんまりせえへんね」(20代女性)という声に象徴されるように、胴上げへの期待が高まるのは、もっともっと間近になってからという雰囲気のようだ。

 球団創設80年のメモリアルイヤーに10年ぶりのリーグ制覇なるかと大きく期待され、そのとおり、8月30日時点で首位を快走するチームにとって、この状況はちょっと気の毒な感じもする。だがこのチームには形容しがたい独自の過去がある。

 近年、最大に盛り上がったのは言うまでもなく03年、星野フィーバーのときだろう。中日を長く率いた星野仙一監督の就任2年目、金本知憲伊良部秀輝といった印象的な補強を行い、勝ち続けた。

 80年の歴史の中で1度しか日本一になっていない「伝統球団」の中で、その唯一の栄光が85年だ。吉田義男監督率いる猛虎軍団が神宮球場で歓喜の胴上げを行った。それから18年。まったく優勝から遠ざかっていたチームが、他球団で育った「闘将」の力を借りて、勝ったのだ。

 まだ12年前のことで記憶されている読者も多いだろうが、当時の盛り上がりは球界の枠を超え、明らかにムーブメントを起こしていた。政財界とも話題は阪神。その年を象徴する漢字も「虎」だった。

 それから2年後、岡田彰布監督で優勝した05年は少し様相が違った。ファンというのは怖いもので、あれほど弱かった阪神が一度の優勝で強いチームとして浸透。巨人が低迷していたこともあり、勝って当然というムードもできていた。

 それでも、その中で、チーム生え抜きで85年のスターでもあった岡田監督の下で2年ぶりの優勝。さらに中心選手が金本、矢野燿大下柳剛の個性あふれる「アラフォー・トリオ」、さらに藤川球児を中心とする「JFK」というブルペン組も注目された。阪神ファンの中では03年とは違う味わいの優勝となり、それなりの盛り上がりとしてとらえられた。

フレッシュさがなくスター不在で注目度低下か




 そして巨人に屈辱的逆転を喫した08年を過ぎ、今季、優勝の可能性が高まっている。だが残念と言っていいかは分からないけれど、盛り上がりはいまひとつである。

 まずメディア側の理由もある。今年、大阪、東京の両方の放送局で仕事をしている人物が言う。

「大阪にいるとスポーツニュースはまず阪神からだけど、東京に行ったらプロ野球の話題で阪神が出てくることはあまりない。日本ハム大谷翔平とか、ヤクルト山田哲人とか、選手個人の個性、注目度が高いチームから取り上げますよね」

 このあたり、甲子園球場に民放キー局の看板女性アナウンサーが取材に訪れていた03年とは、まったく違うといっても過言ではない。

 プロ野球が日本全国の話題というとらえ方をすれば、やはり、東京を中心とした全国区で注目されていなければ、大阪を中心にした関西だけで異様に盛り上がるということもないのかもしれない。

 若さ、フレッシュさ、新しさという他者を引きつける魅力という面においては、正直、阪神は12球団の中でも下位につけるチームだろう。今季の戦いも外国人選手とベテランが中心という構成からもそれは間違いない。いわゆる代表レベルの「スター」も、藤浪晋太郎を別にすれば、名前を挙げることができないのではないだろうか。

 そこに加え「闘将・星野」「阪神の岡田」というキャラクターに対抗できるものを現在の和田豊監督には求めるのは厳しいという事情もある。

「私らファンで毎日球場来てるけどな、いまいち周囲で話題になってないな。監督のキャラクターが立っていないせいかな(笑)」(30代女性)という声も実際にある。

 とはいえ、そこは人気チームだ。実際に甲子園に足を運べばその熱さには、やはり、圧倒される。いや甲子園だけではない、日本中の球場、どこへでも阪神がいけば、観客は入る。勝負の世界、勝つことが何よりの魅力という面もある。球界を代表する球団として、今季の阪神は優勝目指し、走り続ける。
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