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2年連続6度目となる2ケタ勝利をマークするなど、安定感のあるピッチングでオリックスを勝利に導いている金子千尋。彼の武器と言えば、150キロを超える直球に高い制球力とキレ、そして、なんと言っても一番は、打者を惑わす多彩な変化球である。7月に出場したオールスターでの全球変化球宣言は記憶に新しい。プロ10年目を迎えた今もなお進化を続ける金子にあらためて注目したい。
文=喜瀬雅則(産経新聞) 写真=佐藤真一、前島進、BBM

並み居る打者を惑わすおよそコンマ15秒の差


 公認野球規則に記されている、マウンドからホームベースまでの距離は『18.44メートル』。これをもとに、ある計算を行ってみた。

【145キロのストレート】
 投手の手を放たれてからボールが本塁ベース上、打者にすれば、いわゆるミートポイントに到達するまでは『0・458秒』。

【110キロのカーブ】
 18.44メートルでは、ミートポイントまで『0・603秒』。その差、『0.145秒』─。

 この“約コンマ15秒”が、金子千尋という、1人の投手の存在を際立たせている指標と言っても、決して過言ではないだろう。「何しろ、真っすぐと同じ腕の振りで、あの、ポーンと浮き上がるようなカーブが来るんですから。そりゃ、打者は分からないですよね」

 捕手の伊藤光は、マスク越しに何度となく、こんな光景を見てきたという。

「あっ、と思って、打者が慌てて振るんですね。これは、何が来るか、分かってなかったんだな……」

 完全に振り遅れたドン詰まりの打球が、ファウルゾーンへと力なく飛んでいく……。驚きの色を隠せない打者の表情を見るたび、伊藤は金子のすごさを感じるのだという。『緩急』という、その曖昧な言葉を数字に置き換えれば『0・145秒』にすぎない。

 しかし、このわずかな差こそが、並み居る打者たちを困惑させ、三振の、そして凡打の山を築かせるのだ。この“打者受難のドラマ”を演出する金子の宝刀の1つが、カーブだろう。そのルーツを、本人に聞いてみた。

「モデルとかは、いないんですよね。自然に投げていた……っていうんですかね。今でも、投げ始めたときと、同じカーブです」



 2004年秋、オリックスはドラフト自由枠で金子を獲得した。社会人のトヨタ自動車で3年目を迎えていたが、右ヒジの相次ぐケガで、全国的な知名度も、誇るべき記録もなかった。当時の担当スカウトだった熊野輝光(現阪神スカウト)は、長野商高時代から金子の成長ぶりを見守ってきた貴重な1人だが「高校のときから、カーブが良かった」と強い印象があったことを語ってくれた・・・

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