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球界トップに聞く

熊崎勝彦コミッショナー x 荒木大輔氏「野球ファンの目は常に意識する」

 

第13代コミッショナーとして、2014年1月に球界のトップの座に就いた熊崎勝彦コミッショナー。「日本球界をより強く活力あるものにしたい」と意気込んでいたが、その言葉どおりに精力的に活動してきた。就任から約1年。果たして、いま、球界の未来についてどのような考えを持っているのか。野球評論家の荒木大輔氏が迫った。
構成=小林光男 写真=高塩隆、BBM

野球ファンの目は常に意識する


荒木 本日はよろしくお願いします。まず、熊崎コミッショナーはいつごろから野球に親しむようになったのでしょうか。

熊崎 戦後すぐ、小学1、2年生のころからですね。屋外の球技となるとやはり野球が一番人気。自然と親しむようになりましたね。ただ、道具もないから、例えばボールも自分たちで作る。湿気をもたせた布で石を覆って、その上から細い麻糸でグルグル巻く。バットがないから木を削ってバットのようにして、さらにグラブもないので素手でボールを捕っていましたね。プレーする場所は学校のグラウンドや田んぼ。夢中でボールに飛びついたりした記憶がありますね。

荒木 実際にプロ野球を観戦したことは?

熊崎 私は岐阜県の飛騨、下呂市出身で、小学校のとき、そこに中日の二軍が試合に来たのです。それを見に行きました。故郷を思う心は人間、死ぬまで消えることはないでしょう。そんなこともあって、その故郷を思う心の延長線上に幼いころから中日がありました。当然、いまは立場上、どの球団に対しても常に公正、厳格に対応しなければいけませんが、就任会見のときに「中日ファン」と言ったのは、そういうわけなんです。

荒木 2005年からコミッショナー顧問に就任されましたが、中からご覧になった球界はいかがでしたか。

熊崎 いくつか大変だな、と思うところがありました。華やかで資金力も豊富と思っていましたが、そうでもない。さらに組織も一枚岩で、頂点からピシッとピラミッド型となっていない。プロ野球は長い歴史があって、12球団それぞれの考えを持っています。セ・リーグとパ・リーグでも温度差がある。だから、俯瞰して全体をとらえるとモザイク的に積み上げられた組織のように感じましたね。



荒木 それぞれの立場、考えが違うから、スピード感を持って物事を進められないですよね。

熊崎 一つひとつの意見は非常に貴重なんですよ。「これが正しい、これは間違い」と言い切れない難しさもある。すべてのコンセンサスを得ないと前へ進めないですし、そのように努力しないといけないですけど、意見を集約して正しい方向へ導くのはかなり難しいことだろうと感じてはいました。

荒木 実際に2014年からコミッショナーに就任されて、そのあたりは困難を伴うものでしたか。

熊崎 僕は意見を排除することはしません。いろいろな意見を聞きながら、正しい方向性を理解してもらって、お互い理解度を深めていく。そのように進めていくしかありません。ただ、これは個人的な考えですけど、やはり野球界も最終的にはピラミッド型の一つの組織になった方がいいでしょう。もっとシンプルになることが重要です。それは簡単にできることではないですが、意見集約が難しいと、どうしても物事に関して「あそこまで行きたいけど、ここまでしか行けない」ということが増えてしまいます。

荒木 ご自身の役割をどのようなものと考えていますか。

熊崎 野球協約では紛争や不正行為などがあったときに裁く人と定められています。いわゆる裁定者。しかし、時代とともに求められる役割が大きくなっているのも事実。日本野球機構会長、コミッショナーは理事会、実行委員会、オーナー会議で決定されたことを執行する責任もあります。しかし、コミッショナー自らが決めてやる権限は無制限ではない。ですけど、無制限ではない中でかなり積極的に対応しないといけない時代です。

荒木 情報収集もかなり積極的に行っているようですね。

熊崎 ファンあってのプロ野球、野球ファンの目は常に意識すべきですし、的確に把握することが重要。当然、選手、監督、コーチ、球団あってのプロ野球でもありますし、さまざまなことに目を見開いていないといけません。情報を収集し、的確に取捨選択しながら、スピード感を持って、何事にも対応する必要があります。

五輪復活は野球振興の大きなチャンス


11月4日、侍ジャパン事業をさらに推進するためNPBエンタープライズの設立記者会見が行われた[左から赤星憲広侍ジャパンアンバサダー、鈴木義信全日本野球協会副会長、熊崎勝彦コミッショナー、小久保裕紀監督]



荒木 2014年秋に「株式会社NPBエンタープライズ」を設立し、侍ジャパンの事業化を推し進めていますね。

熊崎 侍ジャパンに関してはまず、トップチーム、社会人、21U、大学、18U、15U、12U、女子と全世代を結束させています。これもプロとアマの一体感を醸成させるためでもありますし、さらに球界の底辺を拡大させることにつなげる狙いもあります。現在は少子高齢化の時代。サッカーなどもあり、国民の目も野球だけに注がれているわけではありません。そういった時代で野球界も生き残りを図り、発展させる必要がある。幼児、小学生、中学生の野球人口が減少しているというデータもありますから。

荒木 それは野球界にとっては死活問題ですね。

熊崎 だから野球界全体にもっと活力を与えるために、どうすればいいのか、と。そのためにも各世代で侍ジャパンのユニフォームを着ることを目標にしてもらって、世界一を目指す。「夢」を持ってもらうのは重要なことですから。さらに、事業展開も図ることによって、収益拡大を実現する。それは一般社団法人では制約があるので、侍ジャパン事業などを株式会社化して、その収益も各球団に配分し、またアマにも還元するなど、プロ、アマ一体となって野球振興を図っていくことにつなげようとしたのです。

荒木 「野球振興室」を新設されましたが、やはり熊崎コミッショナーはそれが重要な点の一つであるというお考えなのですよね。

熊崎 これはコミッショナー直轄で設けたんですけど、私自らが指揮して・・・

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