週刊ベースボールONLINE

さらなる飛躍を期す若き投手の挑戦

「2年目のジンクス」を打ち破れ!

 

プロ1年目に好成績を挙げた選手の2年目に付きまとうのが「2年目のジンクス」という言葉だ。慣れや研究し尽くされるなど、要因はさまざまだが成績を落とすことが多い。昨年、ルーキーイヤーにプロで輝いた5投手は、果たしてどうか。「2年目のジンクス」を打ち破ろうとキャンプで汗を流す姿をリポートする。

大瀬良大地[広島]
昨季成績:26試合、10勝8敗0H0S、防御率4.05


「継続」より「進化」
昨季の自分を上回る!


 22年目の大瀬良大地の春季キャンプのテーマは、「継続」ではなく「進化」だ。昨秋キャンプから取り組んできたスプリットの完全習得、下半身主導のムダのないフォーム安定を目指している。

スプリットの完全習得に臨むなど、キャンプで進化を求めている大瀬良[写真=川口洋邦]



 日南キャンプは、8年ぶり復帰の新井貴浩や新人の野間峻祥に注目が集まっている。1年前、大瀬良は彼らと同じように大きな注目を集めた。しかし今春は、自分のペースを貫いている。「周囲が見えるようになっている。球数は少なくても、ブルペンに入る頻度は上げたい」。第1クール最終日に右肩付近の張りを訴えたが、調整は順調だ。

 キャンプ初日から心地良い捕手のミット音が響いた。球数は予定していた40球を大きく超える85球。「感覚が良かったので、状態が良いときは投げておこうと思った。良い形で入れた」。ほかの球種とともに、新球スプリットも投じ、手応えは上々。「ほかの球種よりも完成度が低い。僕は不器用なので、多く投げていこうと思う」。投球の軸となるストレートのキレも良い。昨春は左足を上げたときに軸足のカカトも浮き、つま先立ちの状態から反動をつけて投げていた。上体の浮き沈みが自然と生まれ、フォームにブレが生じていた。しかし今年は、軸足のカカトが浮くことはなく、「昨年より下半身を使って投げられている」。昨秋キャンプから全体練習後に自らランニングを課し、オフには前田健太の合同自主トレに参加。体幹や下半身強化を主に持久力アップに努めてきた成果の表れだろう。

 昨季、先発ローテーションを守り、10勝8敗。チームの2年連続クライマックスシリーズ進出に貢献し、新人王を獲得した。しかし、本人は満足していない。周囲が騒ぐ“2年目のジンクス”に、ピンと来ていないのだ。「よく言われるんですけど、全然意識していないんですよね」。達成感よりも危機感。「昨季の自分を上回らないといけない」。その思いが春季キャンプの意欲的な姿勢につながっている。

又吉克樹[中日]
昨季成績:67試合、9勝1敗24H2S、防御率2.21


野球漬けの1年から不動のセットアッパーへ

 独立リーグ出身者として最高位となるドラフト2位指名を受け、14年に中日に入団した又吉克樹。異例の高評価を受けた実力は本物で、ルーキーイヤーからリーグ2位となる67試合に登板。9勝1敗24ホールド2セーブという堂々たる成績もさることながら、81回1/3で104個を数えた奪三振率こそ球威を物語っている。

 投げる球種のほとんどは直球とスライダー。だが、右サイドから繰り出されるこの2球種で面白いように打者に空を斬らせた。しかし又吉は「勘違いしないようにやっていきたい」とさらなるレベルアップを誓っており、昨年オフには新たな挑戦を始めた。

 その一つが新球・シュートの修得。ドミニカ共和国のウインター・リーグに参加し、現地の強打者相手を相手に腕を磨いた。スライダーだけでは右打者に踏み込まれてしまうため、懐をえぐるボールを覚えたいという意図だった。17試合に登板し、0勝2敗、防御率1.69という好成績からもその成果が分かる。異国の地でも16回で24奪三振をマークしており、実りの多い武者修行となった。

キャンプでも精力的に投げ込み、前年以上の活躍を誓う又吉[写真=大賀章好]



 野球漬けの1年間を過ごしたが、年明け1月26日には早くも沖縄入りし、2月1日のキャンプ初日にはブルペンで75球を投じるなど、変わらぬタフネスぶりを発揮している。右手中指のマメをつぶしてしまったが、6日にも再び75球を投げた。「昨年の疲れは周りが言っているだけです」と自ら口にしており、再び大車輪の働きが期待できそうだ。

 長年にわたって守護神を務めてきた岩瀬仁紀が昨年は20セーブ、防御率3.52という成績に終わっており、今季は福谷浩司とクローザーを争う予定。となれば又吉には、不動のセットアッパーに君臨してほしいところだ。

 掲げる目標は昨季の成績を超える活躍。又吉-福谷の新世代の勝利の方程式が確立できれば、投手力でセ・リーグを席巻した“強い中日”復活への足掛かりとなるだろう。

秋吉亮[ヤクルト]
昨季成績:61試合、3勝4敗19H5S、防御率2.28


変化球の持ち球が倍に!
低めへの制球も徹底


『伝家の宝刀』を手に入れ、2年目のジンクスに挑む。昨季中継ぎとしてチーム最多の61試合に登板した秋吉亮は、2年目の浦添キャンプのブルペンで挑戦を続けている。

「1つ球種を覚えるだけで、投球の幅が格段に上がる。2年目となると打者も研究してくるだろうし、縦、横の変化をきっちり使って打ち取れるようにしたい」

 昨年の秋季練習から高津臣吾投手コーチに秘伝のシンカーを教わってきた。もともとの持ち球は直球とスライダー、チェンジアップ。変化球の数が少ないため入団時から直伝を乞うてきたが、1年目のシーズンは「まだ早い」と一蹴されており、やっと許可が下りた。

 浦添キャンプのブルペンでは、そのシンカーを低めに意識して投げ込むことを徹底している。「ストライクゾーンを9分割したら下の3つ。ワンバウンドになってもいいから、とにかく低め、低めと念じて投げています」と秋吉。

 高津流の球速105キロ程度のシンカーに加え、120キロ程度と自己流のシンカーも練習し、投げ分けに挑戦中。さらに、伊藤智仁投手コーチからは、シュートを教わり、会得を目指している。これで変化球の数は昨季から倍になった。「オープン戦で使っていって、打者の反応を見たい」と開幕までの習得に向け意気込んでいる。

 昨シーズンの反省は明確だ。被本塁打10本、左打者の対戦打率.278という2つの数字が物語る課題。

「プロは甘い球を絶対に逃さない。特に初球の入り方は大事」

 低めへの制球を徹底し体に覚えさせ、シンカー、シュートの揺さぶりで左打者を抑え込むつもりだ。

2年目に向け準備に余念がない秋吉。第一子誕生も大きなモチベーションだ[写真=井田新輔]



 大きなモチベーションがある。昨年12月に第一子の長男が誕生。パパになり、責任感は倍増した。「目標は最低60試合登板、それも勝ちパターンで投げること。バーネットやオンドルセク、竹下もいて競争は激しくなる。結果がすべてだと思っています」と秋吉。新しい武器を手に自覚を胸に、ジンクス粉砕を期す。

石川歩[ロッテ]
昨季成績:25試合、10勝8敗0H0S、防御率3.43


指揮官も認める貫録
新エース誕生なるか


 2年連続でチーム防御率がリーグワーストと投壊に苦しむロッテ。その中で石川歩はチームトップの10勝を挙げる孤軍奮闘を見せ、見事にパ・リーグの新人王に輝いた。

 150キロの直球とブレーキの効いたシンカーのコンビネーションを軸に新人らしからぬ堂々たる投球を見せ、規定投球回にも到達。2年目はまずは14年の成績を最低ラインに……と行きたいところだったが、チーム事情がそれを許してはくれなさそうだ。

 昨季終了後に5年連続開幕投手を務めた成瀬善久ヤクルトへFA移籍。石川にかかる期待は一挙に高まった。

 昨季の収穫には「課題が見つかり、オフにやるべきことが分かった」ことを挙げる。自身の生命線であるストレートのキレ味を磨くとともに、持ち球であるシンカーとスライダーの改良にも着手。それぞれ違った変化を求め、従来のものとの投げ分けを図っている。

 2月3日にブルペン入りした際には投球を視察した伊東勤監督が「貫録がある。下半身がどっしりした感じがするね。開幕候補の1人として順調にやってほしい」と発言。ほかには涌井秀章唐川侑己らが開幕投手候補として挙げられているが、2年目の石川も横一線にいることは間違いない。

2年目にして早くもエースの雰囲気を漂わせている石川[写真=高塩隆]



 石川自身は「(開幕戦は)自分の真っすぐを100パーセント発揮できるのなら投げたい。まずは自分のボールを投げられる状態にすることが第一」というが、調整が順調ならば大役を務める可能性は十分だ。

 東京ガス時代に臨時コーチを務めた恩師の武田一浩氏(野球評論家、元日本ハムほか)は「今年に15勝のカベを越えられるかどうかが一つの大きなポイント。そこをクリアできれば負けない投手になれる」と教え子の今季を注目している。

 ロッテの新エース誕生なるか。今年の活躍が、個人とチームの未来を大きく左右しそうだ。

森唯斗[ソフトバンク]
昨季成績:58試合、4勝1敗20H0S、防御率2.33


対策は取らない!
「よしボーイ」の自信


 見えない壁は無視だ。連覇を狙うソフトバンクで今季も「勝利の方程式」として活躍を狙う森唯斗。2年目のジンクスなど完全スルーだ。

「あれこれ対策を取る人もいるかもしれませんが、僕は去年やってきたことをそのまま続ければいいと思っています。変える必要はありません」

 自信がある。昨年は相手に「ラッキーセブン」を許さなかった。主に7回のマウンドを任され、新人ながら58試合に登板。リーグ優勝と日本一に大きく貢献した。惜しくも新人王はならなかったが、年俸では4倍増の4800万円(金額はすべて推定)は、パ新人王のロッテ・石川歩(3700万円)、セ新人王の広島・大瀬良大地(3500万円)を大きく上回った。

 しかし、1年前のキャンプでこれほどの活躍を予想することは難しかった。特徴は投げっぷりの良さ。しかし、故障のリスクのある投げ方だと誰もが気づいていた。そのとおり、オープン戦で初めて回をまたいで2イニングを投げると、足を故障した。即ファーム落ちして開幕一軍を逃した。だが、それが転機となった。昨年、ファーム投手コーチを務めた山内孝徳氏(今年は九州三菱自動車でコーチ)が述懐する。

「どんなに馬力がある投手でもリリースの瞬間に左ヒザ(右投手の場合)が伸び切っていると、肩、ヒジをはじめ体に負担がかかる。彼はその典型でした。軸足をグッと我慢し、左足は勢いよくドンと着くのではなく、スーッと行ってポンと着く感覚。いかに柔らかく使えるか、です。彼は熱血漢だが、冷静に他人の話を聞くことができる性格が幸いしました」

去年やってきたことを継続して、今季も勝利の方程式の一角を担う覚悟の森[写真=湯浅芳昭]



 フォーム改良が奏功したと森自身も認めている。

 ブルペンでは「よし!」と大きな掛け声を上げながら、勢いある球を投げている。昨年、「よしボーイ」というあだ名が付いた。名付け親は当時まだ解説者だった工藤公康新監督だ。スタイルそのままに臨むプロ2年目も、鷹に勝利を運ぶ使者としてフル回転する覚悟だ。
HOT TOPICS

HOT TOPICS

球界の気になる動きを週刊ベースボール編集部がピックアップ。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング