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「微差は大差」発売記念インタビュー

オリックス・森脇浩司監督インタビュー「大切なのは変わり続けること」

 

森脇監督はチームについて「向かうべき方向に向かいだしたが、まだ我々は旅の道中」と語った



金子残留&大型補強


 万全の体制で臨む今季─著書の中で、昨年一番変化した選手の名前に金子千尋投手を挙げていました。残留という形で、最高のスタートを切れたわけですが。

森脇(金子)千尋は高いポテンシャルを持ちながらも、ワクワクするような伸びしろを常に感じさせてくれる選手です。今回、残留という決断をしてくれた本人、またそういう決断を導いてくださったフロントの方々、両面に感謝したいと思います。ウチは、パ・リーグでは優勝から遠ざかった期間が最も長いチームですが、そんなチームが向かうべき方向に進んでいくために、またそこからさらに加速していくために、千尋は欠かせない選手です。

──このオフには、中島裕之選手、小谷野栄一選手を獲得するなど、大型補強も話題を呼びました。

森脇 今回、ややもすると選手の補強があってチームが変わったように思われるかもしれませんが、昨年の2位はもともといた選手たちで成し遂げたこと。これは素晴らしいことですよね。今回入ってきた選手たちはキャリアもありますし、僕も何度も対戦したことがありますが、非常に素晴らしい選手たちです。

 ただ、その中で僕が大事にしたいのは、選手の評価を名前で決めつけないこと。変化を求めて、本当に変化した選手をきちんと評価したいと思っています。今回、有能な選手が入ってきたことで、今まで下の方で行われていた競争が、今度はさらに上のステージで行われようとしています。否が応でも競争は激しくなりますよね。パ・リーグの5球団と戦う前に、まずはチーム内の競争があって、その前に自分との戦いがある。日々そうやって戦っているからこそ、向上心も高まると思います。

──そういった意味では、生え抜きの選手たちの意識も、より高まってきそうですね。

森脇 ここで上がらなければいつ上がるんだ、という気持ちは持っているでしょうし、大いに悩み苦しみ、また大きな希望を持って失敗を恐れずにやってほしいと思います。

 というのも、我々は失敗から学べる体質になりましたから、失敗は怖がらなくてもいいわけです。やはり勇敢に戦っていかなければならないので、勝つための準備をしたうえで思い切り勝負をすればいい。怖いからこそ準備をしてやっていくことが大切です。それと、“生え抜き”という言葉は、最初に入った球団で育った選手のことを指しますが、僕のとらえ方は違います。「このチームで勝ちたい」「このチームで優勝したい」という思いが強い選手が生え抜きだと思うんです。

 したがって8年いる選手でも、昨日入ってきた選手でも、そういう思いを持っている人が生え抜き。問われるのは年数ではなく、“思い”です。僕らの時代と違って今はFAも含めてチームの中心がどんどん動いていく時代ですから、そこにこだわりを持ち過ぎることで、チームの成長を阻んでしまう場合も起こりうる。入ってしまえば、みんなチームの一員です。

中心選手の意識向上が集団を動かす力に


──これまで変化をテーマにお話をうかがってきましたが、今年キャプテンに糸井嘉男選手を指名したのも、一つの変化と言えますね。

森脇 やはり、組織が期待するのは若手の台頭。それがないとチームの活性化はないし、総力アップもありません。ただ、ウチのチームには若手の台頭よりも中心選手の意識レベルの向上が必要。中堅、主力、ベテランと呼ばれる人たちが、強い責任感とリーダーシップを持って存在することが、集団を動かしていくためには必要なんです。それを一人がやればいいというわけではなくて、何人かがその役割を担わなければならない。そして、リーダーの数を増やしていくのが僕の仕事というわけです。

 今年はメンバー構成が変わり、嘉男が一番適任だと思って指名しました。資質は持っていると思いますし、自分のスタイルでガンガン引っ張っていってほしいと思います。昨年は、坂口(智隆)が非常によくやってくれました。彼自身はバッティングの数字が物足りず、悩んだ時期もあったと思うんです。それでも、それを表に出すことなくチームを鼓舞してキャプテンとしてふさわしい言動を取った。これは、非常に尊いことだと思います。今後は冠が取れるけれども、昨年と変わりなくチームを引っ張っていってほしいですね。リーダーの数を増やすということは、ある意味、僕の考える“生え抜き”の数を増やしていくことにもつながります。

──オリックスファンの皆さんも今季の戦いを楽しみにしていると思います。

森脇 これは今までと変わりませんが、昨日より今日、今日より明日、3月より4月、4月より5月という歩みができるかどうか、それがペナントの行方を左右します。そういう意味で、ファンの皆さんには日々進化していくオリックスから目を離さず、見守っていただければと思います。

 昨年は、選手たちがファンの方々と一緒になって戦うりもさらに一緒になって戦っていきましょう。去年皆さんが流した悔し涙を、僕たちがうれし涙に変えたいと思っています。大型補強もありましたが、昨年以上にアグレッシブでないと、戦い抜くことは100%無理だと思っています。勝負事はそこまで甘くない。だから、準備の精度を高めてアグレッシブに戦っていきたいですね。

ファンに対しては「日々進化していくオリックスから目を離さず見守ってほしい」



PROFILE
もりわき・ひろし●1960年8月6日生まれ。兵庫県出身。社高から79年ドラフト2位で近鉄入団。広島、南海・ダイエーで内野のユーティリティープレーヤーとして活躍後、96年に引退。その後は、ダイエー・ソフトバンクでコーチ、二軍監督、監督代行、ヘッドコーチ、巨人で二軍コーチを歴任し、12年にオリックスのチーフ野手兼内野守備・走塁コーチ、監督代行。13年から監督を務め、昨季はチームを6年ぶりのAクラス入り(2位)に導いた。

『微差は大差』発売秘話


「監督についていくぞ」と、昨年、ペナントレースの佳境を迎え、糸井選手がチームメートに発信したという。このほど完成した森脇監督著の『微差は大差』を読むと、指揮官と選手たちが、なぜ強い信頼関係で結ばれていたのかよく分かる。

 森脇監督の趣味は「人の話を聞くこと」と朝晩の読書で、日記をつける習慣は高校1年のころからだそうだ。言葉を大事にしていて、実際、本書の原稿が完成するまで何度も推敲を重ね、読者にもっとも伝わる表現を考え抜いて探していた。

 本誌の連載で以前、野村克也氏が「森脇はプロ中のプロや。あんなヤツはほかにはいない」と勉強家の森脇監督を褒めていたが、本書ではその野村氏とのエピソードも明かされる。また、逆境での思考と言動、さらには伊藤選手やT‐岡田選手ら、選手たちとの会話はとくに興味深い。読めば前向きなパワーを必ず得られる一冊。オリックスファンはもちろん、すべての野球ファン、育成、組織作りに携わる人にもぜひ。(編集担当:江國)

森脇監督流 成長の法則・リーダー論を明かす、初の自著本

定価:本体1500円+税/仕様:四六判・208頁/発行元:ベースボール・マガジン社/発売中




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