週刊ベースボールONLINE

球界インサイドレポート

ヤクルト投手陣好調の理由・「意識の変化」とは

 

開幕からヤクルトが上位をひた走っている。その快進撃を語る上で投手陣の奮闘は外せない。ロースコアの試合が多く、苦しい状況が続く中でも耐えてチームを勝利に導いている。昨季12球団ワーストの防御率から4月30日現在、12球団トップの防御率を誇るまで躍進を遂げたヤクルト投手陣の覚醒の理由に迫る。



文=町田利衣、写真=田中慎一郎、大泉謙也、高塩隆

“切り替え”の意識


 ヤクルトの投手陣に何が起きたのだろうか。防御率リーグトップの1.94(4月30日現在)で、好調のチームの原動力と言われている。開幕から14試合連続3失点以下を続け、56年西鉄の13試合を抜くプロ野球記録まで樹立した。昨季はリーグワーストの防御率4.62。チーム打率がリーグトップの.279だったこともあり、投手陣が2年連続最下位の原因に挙げられることも多かった。昨季と比べると今季は「覚醒」ともいえるめざましい活躍を遂げており、少々驚いている人も多いのではないだろうか。

 高津臣吾投手コーチは、その変化について「ちょっとしたこと」と強調する。昨年から口を酸っぱくして言い続けてきた「切り替え」ができるようになってきたのだという。走者を出しても次の塁に進ませない、という意識。四球を与えても引きずらずに次の打者との勝負に目を向ける、という意識。

「口うるさいおっさんだなと思われているだろうね」と高津コーチは笑うが、昨年11月の秋季キャンプ、今年2月の春季キャンプでも常に頭にたたき込ませることで、少しずつ浸透しつつある。もちろん、昨季の悔しさも大きな原動力だ。石川雅規が「投手陣が課題と言われ続けてきた悔しさは持っているし、今年は投手が野手を助ける試合をしようという話はみんなでしている」と明かせば、小川泰弘は「投手で勝てる試合を増やしていきたい」と語気を強めた。

投手コーチを務める高津臣吾コーチ[左]と伊藤智仁コーチ。昨年の経験から、意識や調整の仕方などに変化を加えた



 またここまで大きな故障者が出ていないことも、何よりの要因だろう。昨年は開幕直後に守護神のバーネットが離脱。4月中旬にエースで開幕投手を務めた小川が、右手のひらに打球が直撃し骨折の憂き目に遭った。6月にはバーネットに代わって抑えを務めていたロマンが離脱。エースと抑えを欠いた苦しい戦いは続いた。小川がようやく復帰マウンドに立ったのは7月12日。このときすでにチームは「12」もの借金を抱えていた。

 今季は真中満監督の方針もあり、小さな変化でもすぐに報告することを義務づけている。その結果、春季キャンプでは小川が左ワキ腹の張りを訴えて一部メニューを変更することもあったが、2月28日に初マウンドに立つことができ、予定どおりに2年連続の開幕投手を務めた。同じく石山泰稚も股関節の痛みでスロー調整となっていたが、しっかりと開幕先発ローテーションに名を連ねた。危機管理を徹底することで長期離脱を避けている。

投手陣がもたらす相乗効果


5戦2勝と勝ち星には恵まれていないが、小川が投げる試合ではチームは無敗だ



 先発投手については、試合開始前に行われる約15分間のバッテリーミーティングの存在も大きい。相手打者への攻め方、配球などバッテリー間で意見交換を交わす。調整方法も変わった。その日の先発投手は全体練習の参加を免除。それぞれが自分の時間の使い方で、プレーボールに合わせる。またデーゲームに先発する投手は、チームがナイトゲームを戦っていたとしても2日前から「デーゲーム調整」に入る。正午ころから行う練習について、開幕から土曜日の先発を任されていることから、この調整を行った石川は「試合に入りやすい。体のリズムがつくれる」と歓迎している。

 ロッテからFAで加入した成瀬善久は、開幕2カード目初戦のマウンドを担った。小川、石川とともにチームの3本柱となった。昨季途中に先発に転向した石山は、今季から本格的に投げ始めたシュートを武器に安定した投球を続ける。2年目で新人王の資格を持つ杉浦稔大も勝ち星には恵まれなかったが奮闘。右肩に張りを訴え21日に登録抹消となったが、早期復帰を目指し調整中だ。さらに昨季ソフトバンクからトレード移籍した新垣渚が、2年ぶりとなる移籍後初白星を挙げるなど、先発陣の安定感は際立っている。

 また救援陣には「相乗効果」が表れている。メジャー・リーグのレッズから加入したオンドルセクは、昨季まで5年連続で40試合以上に登板したバリバリのメジャー・リーガーだ。オープン戦でオンドルセクと競い合い守護神の座をつかんだバーネットは、30日までに11試合に登板していまだ防御率は0.00と失点がない。新人だった昨季に61試合登板と大車輪の活躍を見せながら、今季「結果を残さないと一軍に残れない」と危機感を口にする秋吉亮も、2年目のジンクスとは無縁そうだ。唯一の左投手の中澤雅人は厳しい場面での登板が増えるが、風格すら漂う。徳山武陽は「みんなが点を取られないから、自分が取られてたまるものか、という思いはあります」と最強リリーフ陣の思いを代弁した。

気迫の投球を続ける守護神・バーネット。12年以来のセーブ王に返り咲けるか



 真中監督は「投手が頑張ってくれているからこの順位にいられている」と目を細める。投手陣の粘り強さ、次の1点を与えない姿勢が野手陣の踏ん張りを呼ぶ。昨季のように大量得点を奪える試合は少ないが、1点差試合をものにする底力を蓄えつつある。「高校野球じゃないけど、1試合1試合成長している」と選手を称えた指揮官。覚醒した投手陣は、チームに一丸の力をももたらしている。
HOT TOPICS

HOT TOPICS

球界の気になる動きを週刊ベースボール編集部がピックアップ。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング