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球界インサイドレポート

藤川球児の生き方「人生観や価値観は曲げたくない」

 

野球ファンの心を揺さぶる決断だった。藤川球児がテキサス・レンジャーズから高知ファイティングドックスへ。自由契約になったとはいえ、メジャー・リーグから独立リーグの球団に移るなど予想外のことだった。しかし、藤川球児という野球人の本質を探っていけば、その生き方にブレがないことがよく分かる――。
文=岡部充代(スポーツライター)、写真= 山田次郎

6月8日、高知市内で四国リーグ・高知の入団会見を行った



“大型コンピューター”がはじき出した回答


 6月1日午後3時。一時期、閉鎖されていた藤川球児のブログが新設され、『志』というタイトルの長文がアップされた。独立リーグ・四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスへの入団を報告する内容だった。

 球児らしい――。

 ブログを読んで、まずそう思った。このニュースは驚きをもって伝えられたけれど、藤川球児という人物に少なからず接したことがある人は、きっと私と同じ感想を持ったはずだ。本人も「オレのことを知っている人は、みんなそう言う」と言って笑っていた。

 なぜ、球児らしいのか。

 理由はいくつかある。1つは、「必要とされる場所で投げること」にこだわっている点。次に、「家族と一緒にいられること」を重視している点。そして、周囲の人に配慮しつつ、「自分の気持ちに正直に」行動している点だ。

 阪神時代、何度もインタビュー取材をさせてもらった。そのとき感じたのは、藤川球児の頭の中には“大型コンピューター”が入っていて、24時間、365日、フル稼働しているのではないか、ということ。時に、3日前と真逆のことを言う。取材する側としては戸惑うのだが、決していい加減なことを口走っているわけではなく、思考を止めないから、違う視点や発想が生まれてくるのだ。そして、その方が正しい、より良いと思えば、過去の自分にはこだわらない。「前へ、前へ」も球児らしさだった。

 とにかく日々、考えている人だから、今回の決断も、大型コンピューターが壊れんばかりに回転して、はじき出した回答だったのだと思う。

投げられる喜びを一番に感じられる場所


05年、リリーフとして80試合に登板して阪神の優勝に貢献。左から関本、矢野、藤川、福原[写真=BBM]



 メジャー・リーグから日本球界に復帰する選手たちは、まずNPBの12球団に帰ってきた。そこで思うような結果を残せず、独立リーグに活躍の場を求める選手はいたけれど、直接入団するのは初めてのケース。しかも、球児サイドから話を持ちかけたというのだから、アイランドリーグ関係者は驚いたに違いない。

 球児の場合も、5月にレンジャーズを自由契約になった直後から、古巣・阪神への復帰が既定路線かのように報道されていた。ジェフ・ウィリアムス久保田智之とともに「JFK」を形成して一時代を築き、ファンに絶大な人気を誇った球団の大功労者に対して、坂井信也オーナーは「タイガースの宝」と表現。マスコミを通じてラブコールを送っていたのだから、そのような報道が出たのもうなずける。

 しかし、球児にとってそれは「違和感」でしかなかった。自分は何も決めていないのに、なぜ報道が先行するのか。なぜレールが敷かれていくのか。一本気な性格だけに、この違和感は、阪神からの誘いを断る一因になったに違いない。

 そして、古巣に戻らなかった一番の理由は、「いまの自分が腕を振る場所ではない」と判断したからだ。球児はもともと「この試合で腕がちぎれてもいい」と思って全力投球するタイプ。「そのくらいの覚悟で投げないと、ファンに失礼」だとよく言っていた。だからこそ、ファンは魅了されるのだろう。球児の「火の玉ストレート」はただ速いだけじゃない。そこに「魂」が宿っているから、相手バッターは分かっていても空振りをし、その光景にファンは酔いしれたのだと思う。

 球児は考えたはずだ。いま阪神に戻って、同じような思いで投げられるだろうか、と。コンピューターが出した答えは「NO」だった。自分を育ててくれた阪神球団への感謝の気持ちも、熱い声援を送ってくれたファンへの感謝の気持ちも忘れてはいない。ただ、いまの阪神は、ブログに書いたような「投げる喜びを1番に感じられる場所」でも「必要とされる場所」でもなかった。

「どうして過去のことを聞きたがるの? それが記者の仕事かもしれないけど・・・

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