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荒木大輔が見た清宮幸太郎の初めての夏

 

入学から4カ月が経過したばかりの高校1年生が、2015年夏の「顔」と言っていい。ラグビートップリーグのヤマハ発動機・清宮克幸監督の長男・幸太郎は春の東京都大会から注目を集め、いよいよ初めての夏を迎えた。80年夏、早実の先輩・荒木大輔氏は1年生から甲子園に出場し国民的アイドルとなったが、自身の35年前と比べながら夏デビューを語った
構成=岡本朋祐 写真=田中慎一郎

スーパー1年生の潜在能力と将来性


 この春の東京都大会の衝撃デビュー以来、清宮幸太郎と私が、同じ「早実1年生」として比較されることがよくあるが、その“対象”にならないと思っている。私は80年夏の甲子園1回戦(対北陽)で完封して以降、取り巻く環境が一変した記憶がある。対する清宮は早実高等部の入学前、いや、世界一を遂げた東京北砂リトル(早実中等部1年)から脚光を浴びる世界に身を置いてきた。

 私は1年夏の東東京大会の段階では、1人の控え選手(背番号16)に過ぎなかった。2年生エース・芳賀誠さんの大会直前のケガにより、京華との初戦(3回戦)で先発。マウンドに上がれることが何よりうれしかった。つまり、無欲だったわけだ。

 一方、清宮は入学3日後に三番・一塁で公式戦出場(私もほぼ同じタイミングで三塁守備のみで出場)。3試合目の準々決勝(対関東一)では高校初本塁打を放った。6月上旬に取材した際も「プレッシャーはない。レベルの差も感じていません」と堂々たるもの。とはいえ、5月で16歳。まだ(高校野球の)怖さを知らないんだな、と思った。春は持ち味の思い切りの良さが出て、攻守にノビノビ。それが、好結果に出た。

 しかし、甲子園につながる夏は違う。負ければ最後となる3年生の思いも加わる。注目されることに慣れているらしいが、高校野球熱は特別だ。初戦は26社90人もの報道陣が八王子市民球場に集まったという。

 物怖じしない性格で、周囲から「怪物」と言われた清宮もやはり、高校1年生だった。東大和南との3回戦。試合後に「硬かった」と自身の口からも飛び出したように、1安打1打点も本来の姿ではなかった。「打ちたい」気持ちが前面に出てしまい、ボール球にも手を出す悪循環。今夏のテーマに“我慢”を掲げたそうだが、それができなかった。中学の調布シニア時代にスランプを経験したという。投手から打者まで、リトルの14メートルから約18メートルになりタイミングを取るのが難しかった、と。

 高校入学以降、4メートル差の“間”が合ってきたそうだが、この日は緩急に惑わされ18.44メートルの間を取れない兆しが見えた。技術の問題か、夏の独特の雰囲気がそうさせたのか─。翌日の4回戦(対府中西)では二塁打2本の3打点。試合後に「自分の方が相手投手よりも上だと思って、来た球を振った」と話していたが、やはり、気持ちの問題であったようだ。

 四番に主将・加藤雅樹(3年)という左の強打者が控えるも、三番・清宮が最も警戒されていたのは明らか。この夏が終われば、清宮にマークが一極集中する。走者がいれば勝負を回避。相手校からすれば当然の策だ。今秋以降、フリーで打てる状況はさらに少なくなることを覚悟しなくてはならないが、いかなる逆境も乗り越える後輩だと確信している。

入学式以降でないとベンチ登録できなかった春は背番号「19」だったが、今夏は正一塁手を意味する背番号「3」に昇格。西東京大会準々決勝までの4試合で13打数8安打7打点をマークし、チームを4強へ導いた

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