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荒木大輔が見た小笠原慎之介投手の可能性

 

梅雨も明けて夏本番―。甲子園出場をかけた地方大会も大詰めを迎えた。高校3年生の有力選手にとっては、スカウトにアピールする最後の場。もちろんチームの勝利に徹することが評価につながってくる。西武ヤクルトで指導実績を積んだ元プロコーチの視点から、高校生No.1左腕を鋭く斬り込んでもらった。
構成=岡本朋祐 写真=菅原淳

変化球の精度を高めることが今後の課題


 2015年の高校生ドラフト戦線において、右投手の評価No.1は県岐阜商・高橋純平と言われる。本巣松陽との夏初戦(2回戦)を取材したが、登板回避。各務原西との4回戦後に左太もも痛を明かしたが、将来を見据え、無理をしてほしくない。

 さて、今回は高校生サウスポーで「ドラフト上位候補」とウワサの東海大相模・小笠原慎之介投手を見た。同僚でこちらもドラフト上位候補の151キロ右腕・吉田凌と切磋琢磨し、背番号1を任されるのだから相当の実力者だ。神奈川大会4回戦は、石井貴氏(元西武)が非常勤コーチとして携わる藤嶺藤沢が相手。小笠原は住吉との3回戦での救援登板を経て、今夏初先発のマウンドであった。

 その立ち上がりに注目していたが、フォームが気になった。体全体が使えていないのだ。簡単に説明すると、投げ終わった際に軸足(左)が前へ出てこない。つまり、体重がうまく乗らず、上半身主導となっていたのだ。もう一歩、押し込めない影響から、対右打者の内角に狙ったボールがやや内に入ってしまう。また、対左打者にはボールが抜けてしまい、死球を与える場面も見られた。

 ところが、5回を境に人が変わった。ネット裏のスカウトのスピードガンによれば最速147キロと、良いボールを投げていた。門馬敬治監督は試合後に「見ている人が見れば分かると思いますが、(小笠原は)自分でコントロールしていた。ゲームの中で修正できたのは収穫」と明かしているが、相手を見て投げていたのだ。本人も「右打者の内角に投げ切れなかったことが反省。ボール1個、中に入っていた」と、試合中から課題に気づいていたという。

 中盤以降は軸足で立ち、左足を着地するフォロースルーまでの体重移動がスムーズとなり、何よりフィニッシュで左足が飛び跳ねていた。序盤までとは異なる躍動感があったわけだ。試運転から尻上がりに状態を上げ、トップギアに入る。大器の片りんを見た。

 7回無失点(コールド)のこの日は12奪三振と、結果的に相手を圧倒したものの、プロで即通用するかと言えば、そう簡単な世界ではない。高校生レベルでは、回転の良いストレートで空振りを取れる一方、変化球の精度も高める必要がある。桐光学園高時代の松井裕樹(現東北楽天)のような決め球がないのが現状。カーブで確実にカウントを取れるようになれば、投球の幅は広がる。スライダー、チェンジアップ、ツーシームを投げていたが、やや腕の振りが緩んでいた。これは、常日ごろからの投げ込みによって解消される分野だ。

 あとは、本人も課題として口にしていたように、左投手の特性であるクロスファイヤーを磨いてほしい。ヤクルトで指導した赤川克紀日高亮もそうだったが、この意識を植え付けることで投球は劇的に変わる。マウンドでの立ち居振る舞いも堂々としており、素材は間違いない。獲得した球団は体作りと並行し、二軍戦で週1回の先発登板機会を重ねることで、レベルアップを図らせたい。

序盤は「試運転」と言った入りだったが、中盤以降にギアを上げ、大器の片りんを見せつけた小笠原。試合中の修正能力こそ、一流選手の証だ

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