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白球ストーリー〜2016年への鼓動〜
密着・駿太 目指す「一番・中堅」、衝撃を受けた小谷野の打撃論

 

もがき苦しむ22歳。高卒1年目から期待を寄せられ、昨季はキャリアハイの135試合に出場も、いまだレギュラー定着には至っていない。「俺は何をやっているんだ……」と葛藤する日々。それでも「一番・中堅」定着に向け、打撃フォームの改造に着手するなど、飛躍を果たすための光明を見いだしている。
取材・文=鶴田成秀、写真=BBM



 悔しさしか残っていない。昨季は七番・中堅で開幕スタメンに名を連ねるも、翌日は先発から外れ、坂口智隆(現ヤクルト)、宮崎祐樹中村一生らと併用が続き、日替わりオーダーを組まれた。そんな中でも自身最多となる135試合に出場し、78安打、31打点、8盗塁と、キャリアハイの成績をマーク。だが、53試合は守備固めでの途中出場で、規定打席に届かず。入団以来の課題である打撃は打率.234と、シーズンを通じて低空飛行。「一番・中堅」のレギュラー獲得を掲げ、強い気持ちで挑んだシーズンだっただけに、自分自身に怒りを感じていた。

「本当に悔しいシーズンでした。レギュラーとして試合に出続けて、チームでトップクラスの成績を残すことが目標でしたけど……。14年があっての15年なのに何も変わってない。むしろ悪くなっているんじゃないか。レギュラーもつかめなかったし、『まだ俺はこんな立場なのか。いつになったら活躍できるんだ』と、葛藤する毎日でした」

 行き場のない怒りは、グラウンドで発散するしかなかった。試合前は誰よりも早く球場入りし、バットを振る。「10分打てるかどうか。時間も場所も限られているので」と、全体練習前後に室内練習場で約100球を打ち込み、試合に挑んだ。それでも、なかなか結果が出ない。

 昨季、「練習をやっても意味ないんじゃないかと思ったときもありました」と語ったことがある。6月を終わって打率.196。現状打破の糸口をつかめないでいると、とどめていた感情が7月31日の楽天戦(京セラドーム)で爆発した。3対3の同点で迎えた延長10回裏。二死二、三塁の好機で打席が回ってくるも、松井裕樹の前に空振り三振。ベンチに戻ると、涙がこぼれ落ちた。

「あの試合の映像を見ると恥ずかしいです(笑)。自分は結構、感情が出てしまうほうなんですけど、涙が出てくることは今までなかった。野球人生で初めて。本当に人生で一番悔しい打席だったと思います。去年はしんどいシーズンだったので『ああ、こういうことなんたな』って。自分自身を見つめ直さなくてはいけないなって。現実を“ドーン”と、突き付けられた感じでした」

 ただ、これで吹っ切れた。4日後の8月4日のロッテ戦(QVCマリン)で、シーズン221打席目にして放った初アーチは決勝のソロ本塁打。以降、8月は21安打を放ち、月間打率.304をマークした。

「やっぱり、涙を見せたことで『やらなくちゃいけない』って思えたし、良い意味でも悪い意味でも、自分を奮起させてくれました」

 しかし、好調は続かず。9月以降は好球を見逃し、難しいボールに手を出しては凡打の連続。出塁率は.294、盗塁数も伸び悩み、一番での出場も16試合と“不動のリードオフマン”を目指した2015年は不本意なシーズンに終わった。

苦闘の中で見いだした「理想の一番打者」




 苦しみをムダにはしない。もがき続けた中にも確かなヒントがあった。どん欲な向上心を持つ男は「人の考えを聞くのが好きだから」と、先輩たちが打席からベンチに戻ってくると、その打者に歩み寄る。

「今の打席は何を狙っていて、実際に何を打ったんですか?って聞きにいっていました。口にする人、しない人いますけど、活躍している人は絶対にいろんなことを考えてやっている。何かを意識して打席に入っている。それは絶対にしていることだと思うんで。だから聞きたい。次の日、同じ状況が僕の打席で回ってくるかもしれない。次の年になるかもしれないですけど、自分の引き出しに入れておくことで、整理して臨める打席が増える。そのほうが絶対に良い。僕の引き出しの一つにしまっておきたいんです」

 なかでも自身の考え方を覆す打撃論を持っていたのが小谷野栄一だ・・・

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