侍と呼ばれた男は、死に場所を求めて名古屋へやってきた。同じFA権を行使しての移籍でも、札幌(
日本ハム)から東京(
巨人)へと移ったときとは思いは違ったことだろう。
小笠原道大の今季成績は80試合で打率.301、1本塁打、18打点(10月1日現在)。ほぼすべてが代打での数字だ。
「よくレギュラーで出ていて代打は難しくないですかって聞かれるんですが、僕のプロ野球人生は代打から始まっているわけで(笑)。どんな出番であれ、1打席、1打席をしっかりと準備をして臨む。そのことには、変わりはないんです」
代打・小笠原のアナウンスがあると、ナゴヤドームのファンはひときわ大きな歓声を送る。よく「外様には冷たい」と言われる名古屋の野球好きだが、功成り名を遂げているこのベテランがどんな思いで移籍を決断したかを知っているのだ。そして、不惑を超えてなお衰えないフルスイングは、人を魅了する力を持っている。
「代打で出て、のんびりと構えていたらもうその打席は終わってしまう。積極的にいくのは言うまでもないこと」
この姿勢で、7月にはすべて代打で6打数連続安打(9打席連続出塁)をマーク。球団タイ記録で、日本記録にあと「1」と迫る打ちっぷりだった。相手にのしかかる重圧、存在感は若手の追随を許しておらず、球団は早々と契約の更新を決めた。
「しっかりと試合への準備をして、チームの勝利に貢献する。どんなときもそれは同じです」
侍・小笠原が望むのはチームの覇権奪回。来季もドラゴンズの切り札としてひと振りに懸ける。