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黒田博樹投手・男の生きざまを凝縮させた「9.4」

 



 マウンドで、打席で、黒田博樹は仁王立ちしていた。9月4日、甲子園での阪神戦。4位だった広島は、負ければクライマックスシリーズ進出の可能性が完全に消滅する試合に臨んでいた。まさしく勝てば天国、負ければ地獄。先発を託された40歳は、気迫を前面に出して立ちはだかった。「いつもと変わらないプレッシャーと緊張感を持ってマウンドに上がった」。醸し出す雰囲気、表情、飛び散る汗。黒田の独壇場だった。

 試合の流れを持ってきたのは打席で見せた「黒田の13球」だった。阪神先発は最多勝を争っていた藤浪。パワーで押してくる藤浪に、黒田は文字どおり食らいついていった。甲子園の夜空に鈍い音が響き渡る。150キロを超える直球にも、宝刀・カットボールにも。追い込まれてから粘る。結局、155キロの直球に見逃し三振に倒れたが、序盤3回で13球を粘り、剛速球を投げさせた。藤浪にプラスになるはずがなかった。さらに男の気迫は貧打が目立っていた攻撃陣の奮起を呼び、松山が決勝弾。田中も続いた。

 マウンドでも8回1/3を投げて無失点。9回は志願の続投だった。完投こそならなかったが、付け入るスキを与えなかった。「9回は自分から行くと言っておいて、しっかり抑えられなく申し訳ない。中継ぎ陣は連投が続いていたので」。126球を投げてなお、口を突くのは反省と懺悔の言葉だった。

 電撃復帰した今季を象徴する男気のマウンド。「投げるだけじゃない。その姿、姿勢だ」と緒方監督は何度もうなずいた。結局、CS進出は逃したが、甲子園での一戦はファンもチームも奮い立たせた。黒田という男の生きざまが凝縮された一戦だった。
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