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センバツ史上、ただ1度しかない優勝決定の瞬間
それにしても、これは微妙なアウトだった

 



 第87回選抜高校野球大会は敦賀気比高の優勝で幕を閉じたが、この2枚の写真は、不鮮明で申し訳ないのだが、第29回大会(57年)の優勝投手のものだ。

 これはその29回大会の決勝戦、早稲田実高-高知商高戦での早稲田実高・王貞治投手のフォームである。ただし、これは投球フォームではなく、けん制球のフォームだ。実は、このけん制球が一塁手のミットにおさまり、一塁走者にタッチした瞬間に試合終了となったのである(5対3)。選抜史上、けん制球で優勝が決まったのは、後にも先にも、これ1度きり。その意味では、非常に貴重な2枚の写真なのだが、それにしても、これは際どいけん制球である。



『公認野球規則』の8.05「塁に走者がいるときは、次の場合ボークとなる」の(C)には、「投手板に触れている投手が、塁に送球する前に、足を直接その塁の方向に踏み出さなかった場合」とあるが、写真の王投手の左足は投手板に触れているから、右足は一塁方向に踏み出されていなければならない。しかし、右足は一塁より本塁方向に向いている。「踏み出す」というほど右足が前に出ていないことを考えるとセットからのスナップスローだったのか。それなら軸足(左足)は投手板の後方にはずさなくてはならない(8.01「正規の投球」の(b)「セットポジション」の【注5】)。しかし、プレートをはずしてはいない。昔は、これぐらいのけん制は許されたということなのだろう。

 王投手のけん制のうまさは、他校にも知れ渡っており、高知商高も警戒していたハズなのだが。もっとも、この試合の高知商高は、早実バッテリーをあざ笑うように6盗塁を成功させているのだから、「王相手でも走れる」の自信はあったのだろう。王は「走者のリードがかなり大きいので、一応軽くけん制するつもりで内山さん(巌一塁手)に投げたらアウトになっちゃった」とのちに語っているが、高知商高には6盗塁がかえってアダになったようだ。
文=平野重治、写真=BBM
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