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第41回社会人野球日本選手権

 

夏秋連覇・日本生命に惜敗も収穫多き大阪での4試合


 その雄弁さは何を物語っていただろうか。敗れた悔しさがないわけではない。ただそれ以上に、日本選手権で見えたチームの成長が東賢孝監督(大商大)の心を満たしているようだった。日本生命に敗れた準決勝直後の指揮官の言葉だ。

「昨年(14年)は都市対抗と日本選手権の両方を逃し、今年の夏も都市対抗二次予選で負けました。全国から遠ざかっていたなかで、今大会はチームとしての精度を上げ、取り組んできたことをやってくれた。準々決勝までは機動力を使って常に先制できましたし、投手陣は継投で完封した試合もあった。選手たちが力を出せるようになってきたと思う」

 東広島市を所在地とする伯和ビクトリーズは、92年に創部したリースキン広島の流れを汲む。経営母体が変わり05年に現チーム名になってからは、都市対抗に08年から6年連続で出場(12年には8強)。日本選手権でも06年に準々決勝進出。東京ヤクルトに進んだ七條祐樹などプロ野球選手も輩出するなかで実績を積んできた。だが、13年の日本選手権中国最終予選で敗れてからは、二大大会の代表権を逃し続けてきた。

「チームを変えるぞ」

 今年で監督20年目の指揮官が、選手たちにそう語りかけたのは今年の初めだ。東監督が振り返る。

「これまでは大胆な改革ができなかったんですが、昨年の二大大会を逃し、それまで私自身がやりたいと思っていたことを選手に伝えました。まずは選手それぞれの野球観をまっさらにするところから始めました。『ぶち壊して作り上げていこう』。そう言って改革を進めました」

 チームには学生時代に確かな実績を残した「スーパースターはいない」(東監督)。その環境下でも、全国で通用するチームの構築を目指した。

伯和ビクトリーズは準決勝で都市対抗と日本選手権の2冠を遂げる王者・日本生命に0対6で敗退。東監督[左端]は、3回途中3失点で降板した先発・椙山に声をかける。右端は捕手・宮田[写真=佐藤真一]



「まずは投手を中心とした守備。完投能力がある投手が多くいるわけではないので、それぞれに役割を与えて継投でゼロに抑える。守備のフォーメーションについても一から考え直した。攻撃ではバントや機動力を使ってかき回しながら、一つの進塁を確実に決める。いろんな攻撃パターンを持って攻める。その意識付けのために、ミーティングは昨年と比較にならないぐらいにやりました」

 今夏の都市対抗予選では、「改革をするときのリスクが全部出てしまった」(東監督)。それでも、選手たちはあきらめなかった。二番打者を担う河野祐助(広島経済大)が「機動力をテーマに戦うなかでヒッドエンドランと三塁前へのバントの精度を常に求めてきた」と言えば、今大会の優秀選手に選ばれた右横手投げの佐原圭亮(吉備国際大)はこう言う。

「チームとして全力発声と全力疾走をやるなかで最後まであきらめずにやり切る。そういうものは出せた」

 日本選手権でのベスト4は、改革の証だ。その結果に一定の評価を与えつつも、東監督はこう言い切る。

「この大会で出せなかった作戦もありますし、まだやるべきこともある。準決勝の敗戦も生かしながら、選手たちには大会で体感したものを来年以降につなげてほしい」

 指揮官は、チーム最高成績を「レベルを上げるための通過点」とも話す。その言葉は最後まで力強かった。(取材・文=佐々木亨)

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