無死二塁でリリーフに出てきた投手は、打者に1球目を投げる前に気分を落ち着かせるために、定位置に立っている遊撃手にボールを投げました。とたんに「ボーク」の宣告ですが、なぜでしょうか。 定位置に立っている遊撃手に投げたからです。
ボークの規則を並べた野球規則8.05の(c)には
「投手板に触れている投手が、塁に送球する前に、足を直接その塁の方向に踏み出さなかった場合」とあります。
ここに
「塁に送球する前に」とあるのに注意が必要です。けん制球とは野手ではなく、あくまでも塁が対象なのです。
したがって、同じ遊撃手に投げるのでも、ベースに入っているか、入らないまでもベースの近くにいて、走者にタッグプレーできる範囲にいるのなら、塁に送球したことになります。しかし、定位置に立っている遊撃手に投げたのでは、塁に送球したことにはなりません。
8.05の(d)には
「投手板に触れている投手が、走者のいない塁へ送球したり、送球するまねをした場合。ただし、プレイの必要があればさしつかえない」とも記されています。
85年11月2日に行われた
西武対
阪神の日本シリーズ第6戦(西武球場)で、このボークがありました。
9回表の阪神の攻撃のとき、二塁走者に
真弓明信を置き、打席に
掛布雅之を迎えたときです。
渡辺久信投手は1球目を投げる前に、振り向きざまに定位置に立っている遊撃手の
石毛宏典にボールを投げたのです。
石毛遊撃手が二塁ベースに向かって走っているのならともかく、ほとんど定位置に突っ立った状態のときですから、塁に投げたことにはならず、ボークが宣告されました。最高の舞台である日本シリーズでのボークは珍しく、65年間でまだ13個しか記録されておりません。