巨人・坂本勇人は“巨人神話”に気付き、その重圧をはね返せば、一流の領域に/写真=内田孝治
読書好きの人なら、岩波書店の出版物に1度はお世話になっているハズだが、筆者も久しぶりに岩波新書を手に取った。このところ「玉」より「石」の方が多いので同新書を購入することが少なくなっていたのだが、3月発売の『唐物の文化史』(河添房江著)は、面白く、しかもためになった。
同書の「あとがき」に「『研究者ならば、いつか岩波から本を出しなさい』と大昔、院生の私に言ってくれた父」とあったのが、印象に残った。60歳の著者の父だから、90歳ぐらいだろう。この年代の人の「岩波」に寄せる信頼は、このように大変に厚いものがあった。
創業者の岩波茂雄は、東大、京大、東京商大(現一橋大)を3本の柱として、そこから出版物の著者、翻訳者をセレクトした。そこに、福沢諭吉全集を出した関係で慶大も加えられた。言ってみれば「慶応までは江戸の内」。これは超のつくエリート主義なのだが、それが成功して、いわゆる“岩波文化人”が生み出され、彼らは、世の読者階級にあがめたてまつられた。岩波書店は昨年、創業100周年を迎えたが、今年、“創業”80周年を迎える巨人は、さしずめ「球界の岩波」というところか。
筆者などには
松井秀喜氏がヤンキースに去ったあとの巨人は、熱心にウオッチングする対象ではなくなった。
中日に移った
小笠原道大を、少し応援したくなったくらいで、勝っても負けても「ああ、そうですか」だったのだが、ペナントレースの結果がどうあれ、ドラフト前から、キャンプ、開幕という半年は、やはり巨人が主役なのである。“岩波文化人”は、いまは水ぶくれして、エリート集団ではなくなってしまったが、この半年間の巨人の主役ぶり(野球ファンもスポーツマスコミもそれが「当然である」、「正しいあり方である」と、無意識のうちに認めているということだ)は、「巨人を話題にしないと不安」という心理が恐ろしく根強いものであることを示している。
これは“岩波文化人”ならぬ“巨人文化人”のパワーが依然強力であることとも関係がある。
長嶋茂雄氏がまだ球団内で重要な地位を占め、
王貞治氏が
ソフトバンク会長と、ともに“現役”なのだから、巨人を忘れたり、無視したりできるワケがない。トレードでの入団組ではあっても
金田正一氏や
張本勲氏は御意見番としてまだまだ元気。
堀内恒夫氏は国会議員だ。そして先の松井氏の太平洋をはさんだ活動ぶり。
こういう方々は、巨人がエリート集団であり、また巨人のみがエリートを生み出すという考え方の裏付けになっている。
だから・・・
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