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岡江昇三郎

昔の大エースたちは球界政治にまとわりつかれてきた。それだけ商品価値が高かったのだ。球団と1対1で対峙できてこそエース

 

 中学から大学まで、10年間も英語を学びながら、最後まで読み通した英文著作はジョージ・オーウェルの、寓意的な『動物農場』とスペイン戦争が舞台の『カタロニア讃歌』の2冊のみ。前者は辞書だけで読めたが、後者は橋口稔さんの名訳が筑摩書房から出ていたので、これと首っぴき。そのうち、橋口訳があまりに面白いので、原書の方は参照程度になるという本末転倒。まあ、それでも何とか読了した。PARAPET(胸壁)とかTRENCHES(塹壕)とか変な単語をいまでも覚えている。

 いま思うと、曲がりなりにも2冊を読み通せたのは、政治的人間(動物)たちのグロテスクな行動が余りに面白かったからではなかったか。

 特に後者のファシスト、コミュニスト、アナーキストらが入り乱れる様は、何とも異様だった。そこにナチスドイツ、全体主義国家ソ連のどす黒い思惑がからむ。正義感に燃えてスペイン戦争にその身を投じた国際旅団(欧州各地からの義勇兵)の若者たちは、この国際政治の、言わばグロテスクなリアリズムに翻弄され、幻滅を味わい、傷心を抱えて帰国するしかなかった。もちろん命を落とした若者も多く、読んでいて「こんな犬死にがあっていいのか!」と怒りと同情が湧いてきた。

 さて、今週号は「エースを狙う男」の大特集。昔から大のつくエースたちは、なぜか政治にまとわりつかれてきた。巨人の初代エース・沢村栄治は、他の選手たちに比べ理不尽なほど何度も戦地に送られ、最後は戦死してしまうのだが、「戦争協力」の犠牲者だったと言う人は多い。

 プロ野球随一の人気者が戦地に赴けば、戦意昂揚に役立ち、「職業野球の至宝・沢村でさえ最前線で戦っているのだ。何と立派なことではないか」とプロ野球の面目も立つ、というワケだ・・・

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岡江昇三郎のWEEKLY COLUMN

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プロ野球観戦歴44年のベースボールライター・岡江昇三郎の連載コラム。

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