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岡江昇三郎

巨人・高橋監督に望むこと。選手の個性尊重も、厳しい指導も、好きなようにやるのもいいが、大事なことはまず具体的な状況把握からだ

 

 昨年の12月6日、都内で「東京六大学野球連盟 結成90周年祝賀会」が開かれたが、トークショーで楽天星野仙一副会長(明大OB)が、巨人高橋由伸新監督(慶大OB)に向かって「個性を尊重し、若い選手の話を聞いたり、なんてやってると失敗するよ。まあ、しっかりやれ」とキツ〜イ一発。

 この一発には伏線があって、高橋監督は、その少し前、あいさつを求められ「何でもかんでも押しつけるのは時代に合っていない。選手の意思を尊重しながら個性を出していくのが、今は合っている」という趣旨の発言をしたのだが、星野発言はこれを受けてのものだった。

昨年12月6日に開かれた「東京六大学野球連盟 結成90周年祝賀会」での楽天・星野副会長(右)と巨人・高橋監督。まず、足元をよく見つめることだ



 さて、読者の皆さん、どちらの発言を「そうだな」と感じますか。筆者などは、こう2つ並べられると、どちらにも「そうだな」とうなずいてしまう。これは、どちらが正鵠を射ているとか、どちらが誤っているというような問題ではないからだ。

 高橋監督は大先輩に敬意を表して「星野さんとまではいかなくとも、厳しくやりたい」と前言をやや修正した。この日は、巨人のOB総会も都内で開かれ、高橋監督に王貞治ソフトバンク会長は「監督になった以上、好きなようにやりなさい」とアドバイス。こちらにも「そうだな」とうなずいてしまう。

 いささか古いネタをマエフリに使ってしまって申し訳ないのだが、この「そうだな」だらけが、実は監督という仕事の最大の難しさなのだ。

 選手の意思を尊重するのはいいが、野球は団体競技。個性を出してもバラバラに自己を主張してばかりではまとまらず、勝利を逃してしまうかもしれない。

 さりとて、やたらに厳しくして、叱り飛ばしてばかりいたら、選手が萎縮して動けず、結局“指示待ち選手”を作り出すだけに終わってしまうことになっては、骨折り損のくたびれもうけ。

 では、好きなようにやってみれば。でも、これは王さんのような大監督だった人だから言えるセリフであって、ルーキー監督には、フリーハンドというのは、ある面、一番つらい選択かもしれないのだ。「じゃあ、どうすりゃあいいんだよ」というブーイングが来そうだが、どういう指導をするか、指揮官になるかは、その監督が、今どういうところに立っているか、この具体的な場所から考えないと始まらないと思う。一般論、概論は、あまり必要ない。

 高橋巨人の場合、長嶋茂雄終身名誉監督が高橋監督に贈った言葉、「巨人らしい野球をやって強いジャイアンツを見せてくれると思う」がヒントになる。高橋監督は、成功例ではなく失敗例を参考にする、というより徹底的に調べ上げることだ。長嶋さんは、75〜80年の最初の監督時代、2度優勝しているが、1年目はまさかの最下位。リアリズムで考えれば、とにかく現役引退した自分に代わる日本人打者を強引にでもトレードで獲得しなければならないのに、ミスターは、川上哲治前監督と、その野球との差別化を図りたいあまり、アイデアリズム(理想主義)に走ってしまった。“クリーンベースボール”という、実体のない、言葉だけが上滑りするスローガンも打ち出した。「巨人らしい野球」ではなく、「こうあったらいいだろうな野球」である。理想主義は、まず勝ってからの話、これを当時の長嶋監督は、忘れてしまった。

 だから、高橋監督は、長嶋さんその人には直接聞きづらいだろうから、当時のスタッフ、選手に、具体的にどんなことが起きたのかを取材すればいい。四番・阿部慎之助に衰えが見えるいま、状況はちょっと75年に似ている。あのとき、長嶋監督は39歳、高橋監督は40歳で、ともに選手から一足飛びに巨人監督というのも似ている。しかし、75年より投手力は、はるかによい。これは好条件。ここを踏まえて、巨人らしい野球を見せてほしい。
岡江昇三郎のWEEKLY COLUMN

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プロ野球観戦歴44年のベースボールライター・岡江昇三郎の連載コラム。

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