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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「野球殿堂」

 

『好球必打』貫いた榎本


 2016年度の野球殿堂入り表彰者名が、このほど発表された。

 私の殿堂入りは、1989年。奇遇にもこの『週刊ベースボール』を発行するベースボール・マガジン社創業者の池田恒雄さんも同年、特別表彰を受けている。私自身は殿堂入りなんか100%考えていなかったから、知らせが届いたときは驚いた。同時に名誉なことと思い、感謝した。

 しかしその後、次々殿堂入り表彰者が増えてくるのを見て、失礼ながら「なんだか殿堂も小粒になってきたなあ」と思った。今年のプレーヤー部門は通算224勝の工藤公康(現ソフトバンク監督)に、180勝の斎藤雅樹(現巨人二軍監督)。確かに両人とも一時代を築いた好投手ではあるが、金田正一さん(元国鉄ほか)ら歴代の表彰者と並べるのはいかがなものか。今や殿堂入りは、人気投票になってしまったのだろう。

89年に野球殿堂入りした筆者。そのレリーフが野球殿堂博物館に飾られている



 一方、競技者表彰エキスパート部門は、榎本喜八(元毎日ほか)。クソ真面目で、遊び心のない男だった。ずっと3割を打っていたが、3割を打てなくなったとたんふさぎこむようになった。私が榎本について感心していたのは、その選球眼の良さ。王(貞治=元巨人)も選球眼は良かったが、榎本は王の上を行っていた。

 王は内・外角両サイドの選球眼が抜群。しかし王は、ベース上の高めのボール球には手を出した。一方、榎本はコースだけでなく高低も正確に見極める。内角少しボール気味の球を「ストライク」と判定された榎本が、審判のほうを振り返り、「ボール1個外れてるよ」と言った話は以前このページでも紹介したと思う。

 バッティング理論というのは一言でいえば、『好球必打』。つまり、「ストライクを必ず打ち返す」ことがバッティングの極意である。『一球入魂』が精神論なら、『好球必打』は技術論。榎本は『好球必打』を貫く、良い目を持った選手だった。

 斎藤雅樹はコントロールの非常に良いピッチャーで、私もヤクルト監督時代、さんざん苦しめられた。96年の対戦成績は0勝6敗。良いカモにされていた。そして迎えた97年開幕戦、私は広島から移籍してきたばかりの小早川毅彦を、五番に抜擢した。

「いいか、小早川・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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