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2015ドラフト指名選手クローズアップ
西武6位・本田圭佑「今はこの名前で良かったと思います」

 

本田圭佑」。サッカー日本代表のスター選手と同姓同名であり、高校時代から名前が先行した感は否めなかった。大学4年間を地元仙台で過ごし、力を蓄えプロ入り。チームには大学の偉大な先輩・岸孝之も在籍しており、飛躍する環境は整っている。
取材・文・写真=高橋昌江

仙台六大学リーグ通算15勝。優勝とは縁がなかったが、同リーグの仙台大・熊原[DeNA2位]、東北福祉大・佐藤[中日2位]と切磋琢磨しながらレベルアップしてきた



高校2年時にW杯と重なりメディア注目の的に


 キャンパス中に響き渡る「ワーッ!」というチームメートの歓声が指名の知らせだった。自身もインターネットの速報を確認していたが、外で待つ仲間の歓喜のほうが一足早く、「名前が呼ばれたんだ」と確信したという。サイトを更新すると、そこには確かに、自分の名前があった。西武からの6位指名だった。

「下位指名になるだろうと予想していたので、緊張し始めたのは4位くらいからですね。でも、名前を呼ばれても、呼ばれなくても、(結果を)受け止めようと思っていました」

 緊張しつつも、冷静に答えを受け止めようと心に決めていたのは、付いて回る彼の名前で鍛えられたメンタルの強さだろう。西武の6位指名選手の名前は、本田圭佑。そう、海外でも活躍するサッカー日本代表選手と同姓同名、漢字まで一緒なのだ。

 本田が注目されたのは、東北学院高2年の2010年夏。その年、サッカーW杯南アフリカ大会でサッカー界の本田が躍動した。中学生のとき、サッカーをしている友人から同じ名前の選手がいると聞かされていたが、このとき、サッカーの本田は活躍の場を海外に広げていた上、W杯で日本をベスト16に導いていた。髪型や発言も注目を浴び、サッカーに詳しくない人でさえ、その名前は知っている。そんな中、宮城に現れた高校球児の本田圭佑。メディアは放っておかなかった。

西武スカウト10人が視察する中で好投を披露


 サッカーの本田が“無回転シュート”ならばと、本田が投じるチェンジアップは、“無回転チェンジアップ”と名付けられた。試合もドラマチックだった。4回戦の仙台商高戦で延長15回、215球を1人で投げ抜き、引き分け再試合に持ち込むと、試合後は熱中症と見られる症状で救急搬送された。翌日の再試合には登板せず、準々決勝は仙台育英高を相手に8回7安打2失点。敗れたが、連打を許さない好投を見せた。

「実力で注目されたわけではなかったのですが、注目されてうれしかったというのはあります」

 初めは、単純にうれしかった。しかし、時が経つと、葛藤も生まれた。

「そんなすごい選手ではないので、名前負けしていることが悪いことのような気もしました。名前で注目されることが嫌になりましたね」

 知らず知らずのうちに名前に見合った活躍をしなければと思った。

「ストレートを速くしなきゃとか、コントロールも良くしなきゃとか、すべてを良くしたいと思い始め、3年は苦しみました」

 3年夏は準々決勝で優勝した古川工高に5対6で敗れた。進路は国公立大を志望していたが、野球を続けたいという気持ちが強くなり、東北学院大に進むことを決意。星孝典や岸孝之(いずれも西武)を輩出しており、本田が1年生のとき、4年生には、ソフトバンクに入団する左腕・伊藤祐介がいた。このような環境が「あわよくば、大学卒業後は社会人で野球を続けられれば」と思っていた本田の心に変化を与えた。プロを目指してみようと思うようになり、高校時代に130キロ台だった球速が上がるにつれ、その思いも強くなった。

 3年春のリーグ戦では、自己最速の147キロをマーク。時を同じくして、仙台大には152キロ右腕・熊原健人(DeNA2位)が台頭し、それも刺激になった。そんな中、夏場に西武の二軍と行った練習試合で自信をつかむ。

「打撃練習を見て、やっぱりプロは違うなと思いました。初めて、プロと試合をして、6回3失点でしたが、周りからは『よく投げた』と言われ、手応えを感じました」

 3年のシーズンオフには、食事の量や回数を増やし、トレーニングの方法も変えて肉体改造した。そして、運命を決定付けたのは、今夏のトヨタ自動車東日本とのオープン戦だった。その日、西武は10人のスカウト陣が視察。本田は初回に本塁打で得た1点を守り抜き、好投した。

「来ているのは分かっていたので、しっかり準備して気合を入れて投げました。これがターニングポイントになったと思います」

あこがれの選手は幼稚園の先輩・岸


 絶好のアピールになり、大学で追い続けた夢は叶った。4年間で技術の成長もあったが、本田圭佑という名前に生まれた運命を受け入れる心の成長もあった。

「嫌でしょうがないときもありましたが、今はこの名前で良かったと思います。サッカーの本田選手はすごく自分というものを持っているなと思います。全部を貫き通していますよね。周りに流されたりしない。すべてを参考にしようとは思いませんが、興味や関心はありますよ。今は名前で注目されるのでありがたいです。すぐに覚えてもらえますからね」

 両親が「優しい響きがいいね」と、読みと字画で名付けた圭佑という名前。複雑な心境もあったが、この名前の注目度をプラスにとらえ、鍛錬してきた。プロ野球界に誕生した本田圭佑は、あこがれの選手に西武のエース・岸の名前を挙げる。9つ違いの岸とは、通った幼稚園、少年野球チーム、中学校、大学が一緒。「同じチームになるなんて、昔の自分からすると考えられない」と笑う。

 そして、こう宣言した。

「岸さんのようになりたいですね。岸さんの次のエースになれるように、いずれ、後を継げるようになりたい」

東北学院大グラウンドのスタンドでポーズ。大学まで生まれ育った仙台を離れ、埼玉で人生の勝負をかける



PROFILE
ほんだ・けいすけ●1993年4月24日生まれ。宮城県出身。179cm80kg。右投右打。柳生小3年時に西中田ゴールデンアクロスで野球を始める。柳生中では軟式野球部に所属。東北学院高では1年秋からベンチ入りし、2年春からエースで2年夏、3年夏に県大会8強。東北学院大では2年春にデビューし、仙台六大学リーグ通算15勝。2年秋に敢闘賞を受賞。
ドラフト指名選手クローズアップ

ドラフト指名選手クローズアップ

ドラフトで見事に指名を勝ち取った選手たちに焦点を当てる短期集中連載。

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