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第4回 選手会の在り方――日本でも築きたい“大人の関係”

 

 労組日本プロ野球選手会(嶋基宏会長=楽天)が11月1日に提出した「意見書」が、新ポスティングシステム(入札制度)の日米間交渉を凍結する事態を招いた。2年前の東日本大震災を受けての開幕日程問題、統一球問題などでは的確に存在感を示した選手会だが、今回は疑問視する意見も多い。

 日本野球機構(NPB)は当初、従来どおりに入札最高額を提示した球団のみが交渉権を獲得し、最終落札額は最高額と2番目の入札額の中間とする新制度案をまとめた。MLB側がこれを了承し、日本シリーズ終了後に日米双方で新制度締結の発表となっていた。しかし、選手会の意見書ですべてがストップ。米フロリダ州オーランドで14日(現地時間)に行われたメジャー・リーグ(MLB)機構のオーナー会議後、「日本国内の協議の遅れ」を理由に、新制度案を白紙撤回する事態となった。

 MLBにも、A.ロッド(ヤンキース)らの薬物問題などが障害となっていた事情がある。選手会の意見書で発表が阻まれ、MLB球団が「ポスティングは、資金力のある球団だけにメリットがある」と発言する時間を与えたとも言えるが、選手会の一連の言動を利用された感も否めない。つまりMLBは交渉上手であり、したたかだということだ。

 交渉の遅れは、MLB挑戦をすると見られる楽天の田中将大の動向に影響を与えた。水を差した選手会トップが、田中のグラウンドでの“リード役”である嶋だったのは皮肉以外の何物でもない。初の直接交渉となった26 日から2日間の協議では、日米両機構関係者とMLB選手会の3者が出席。日本の選手会は参加していない。これまでのMLBとのポスティングの交渉について、選手会は「公式な報告を一切受けていない」と疎外感を表明している。

 日本の選手会が交渉に参加していないのは、MLBの強い意向がある。関係者によると、“元凶”は昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)不参加問題にさかのぼり、MLB側による「日本の選手会への不信感がある」という。

 WBCは国際野球連盟(IBAF)が「世界一決定戦」と公認する大会だが、実態はMLBの興行に過ぎない。MLB機構と選手会の共同設立会社(MLBI)が主催し、他国・地域から各チームを“招待”する形態だ。それに対し、選手会は収益配分が「不公平」だとして一度は不参加を表明。「他人の財布に手を突っ込むマネをした」としてアメリカ側が選手会の言動に“アレルギー”を示しており、好ましいステークホルダー(利害関係者)ではないと位置付けているからだ。

 ポスティングの新制度案に対する意見書が出されたとき、ある球団幹部は「このたぐいの文書の提出を、選手はよく理解していないはず」と漏らした。事実、交渉が遅れたとき、各チームから「田中がかわいそう」という声が選手からも上がった。

 メジャーではMLB機構と選手会が1994〜95年のストライキなどを経て、“大人の関係”を構築。対するNPBと日本の選手会は、よくお互いを「パートナー」と形容するが、齟齬が目立つ。選手会を代表するのは嶋会長のはずだが、実際は顧問弁護士の意思が大きく影響していると言われる。研修会などで選手と選手会、機構と意思疎通を密にしているメジャーとは、残念ながら状況が違う。

 旧体制を壊して、いいものを創造することは間違ってはいない。だが「何でも反対」の姿勢で強硬に主張するだけならば、本物の信頼関係は築けない。

楽天の嶋を会長とする選手会。NPBと良い関係を築き、本当のパートナーとなりたいが……[写真=桜井ひとし]

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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