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第5回 侍ジャパンが抱える課題――打開したい不透明な先行き

 

 常設化が決まっていた野球日本代表「侍ジャパン」が、元ソフトバンクの主砲として活躍した小久保裕紀氏を監督に迎え、船出を切った。初陣は、11月8日から台湾の台北で3試合行った元巨人呂明賜監督が率いる同代表との国際強化試合。基本として26歳以下選手による若手中心の布陣で臨み、3戦3勝と最高のスタートとなった。

 成績以上に収穫となったのが若い指揮官と選手が得た“経験”だ。小久保監督は「恵まれた日本国内とは違うアウェーの環境を味わえたのは、選手にとって間違いなく財産になる。私自身も選手とのコミュニケーションの大切さを再確認できたし、監督は『集中力が必要』と勉強になった」と満足した様子。第1戦で先発した小川泰弘(ヤクルト)は、「独特の雰囲気の中、立ち上がりの乱れを修正できたことが良かった」と語った。

 小久保ジャパンは2017年開催とされる第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を見据え、スローガンである「世界一奪回」の使命を与えられている。「侍ジャパン」の名称はプロのみならずアマ球界各世代の日本代表にも冠されることになり、プロ中心で編成する小久保ジャパンが「トップチーム」の位置付けとなっている。中長期展望でWBCに突き進むプロアマ一丸となった体制を、台湾代表の呂監督は「素晴らしいし、うらやましい。日本は、もっと強くなる」と褒め称えた。

 だが、侍ジャパンが抱える課題は多い。まず、照準に据えている第4回WBCの開催について大会を主催するメジャー・リーグ機構(MLB)からまだ正式なアナウンスがなされていない。盛り上がっている日本、台湾、韓国などと違い、WBCはアメリカ本国ではそれほど注目されていないのが実情だ。

 日本では昨年、労組日本プロ野球選手会(嶋基宏会長=楽天)が収益配分を「不公平」として一時不参加表明をしたが次もどう出るか分からない。韓国でも同様の動きに出る可能性がある。関係者によると「MLBはWBCについて、『歓迎されないなら、なくてもいい』という感想すら持っている」と明かす。

 15年開催とされている国際野球連盟(IBAF)主催の12カ国・地域の代表チームが参加する「プレミア12」(仮称)も、構想段階のままで具体的には進んでいない。「侍」たちの舞台となるビッグイベントは、何ひとつ確約されていない。

 これらの現実は、プロジェクトを取り仕切る日本野球機構の侍ジャパン事業部にとっても頭の痛い問題だ。侍ジャパンの露出を高めるなどマーケティングに力を注いでいるが国際試合を創出できないとスポンサー確保が難しく、テレビ放映権などの巨額な収入も見込めない。強豪国が無数に存在し、マッチメークが比較的容易なサッカーのようなワールドワイドなスポーツではないことが侍ジャパンの最大のネックとなっている。

 小久保監督はチームに経験を積ませるために、キューバなど環境面が違う中南米での試合を希望しているという。侍事業部では外部からの人材を増やすなど、新たな発想での展開を仕掛けようとしている。日韓定期戦など、さまざまな試合の創出をテーブルに挙げて検討。コアなマニアばかりではない新たなファンの開拓を狙うなど、ビジネス面でも妙案を模索している。不透明な先行きを打開できるか、侍ジャパンの今後の動きに注目したい。

小久保監督が就任した新生侍ジャパン。今後の展開は果たして…[写真=小山真司]

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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