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第50回 球界再編から10年(3)――プロ野球内外での明るい将来像の構築の必要性

 

 楽天の創設当時のメンバーとして2005年にドラフト4巡目で入団した西谷尚徳さん(32)が、立正大法学部の特任講師という新たなキャリアを迎えている。明大時代に主将を務め、04年の日米大学野球のメンバー入り。半世紀ぶりにプロ野球新規参入を果たした球団の即戦力として期待されたが、右ヒジなどのケガに泣かされ、10年オフに現役を引退した。現在、社会人として羽ばたく学生を相手に「論文やレポートで自己を表現する方法」について指導しているという。

 以前に比べ、選手のプロ生活やその後の第2の人生に対する意識は大きく様変わりしてきた。07年のドラフトでパのある球団に有数の進学校からドラフト1位指名された投手は、プロ入り後すぐに大学入学の資格を取得するための通信教育を受講。それまでになかった発想として、当時話題となった。野球少年にとって今や、プロになることはゴールではない。プロに入ってからが大事で、プロ選手としてのキャリアを終えた後のことも重要な関心事となっている。

 在京球団の某ベテランスカウトは、最近の選手について「ここ10年くらい、考え方の変化を感じる」と話す。04年オフの近鉄の経営難による消滅を発端とした球界再編も、大きく影響しているようだ。プロ野球の世界はもともと弱肉強食の世界。経済状況を含め親会社も安泰ではないし、引退してからも関連企業が面倒を見るという保証はない。「現実的な選手とその周辺関係者が多くなってきた」と、スカウト活動を通じて実感しているという。

 巨人をはじめとした人気球団への入団を希望する選手が多数を占めていたのは、今や過去の話だ。あえて戦力層の厚いチームに身を投じるよりも「近いうちに、自分がレギュラーとして活躍できるかどうか」が、入団を判断する大きなバロメーターになっている。それは、年ごとの「目玉選手」と言われる一握りのスター候補生でも変わりはない。テレビをはじめとしたメディアへの高い露出度、引退後のタレントなどの道も開ける人気ブランドへのあこがれは、一昔前の発想。地域に密着したローカルスターへの道も、プロを志す選手の目標となっている。

 出番を得てグラウンドでの実績が上がれば、それなりに稼げる。フリーエージェント(FA)による移籍や、ポスティングによるメジャー・リーグへの挑戦というチャンスも広がる。ダルビッシュ有(レンジャーズ)や田中将大(ヤンキース)らが主力選手として活躍するなど、メジャー・リーグも近くなった。日本的な「骨を埋める」という終身雇用的感覚は、選手から消えつつある。現役引退後の次のキャリア選びも、以前よりは選手たちに柔軟性が出てきた。

 全国野球振興会(プロ野球OBクラブ)、日本プロ野球選手会、日本野球機構(NPB)が中心となって、プロ野球選手のセカンドキャリアについての体制を強化している。学生野球の指導者になるための講習をはじめ、野球以外の職業も含めた橋渡し役を務めるなど、10年前とは環境は様変わりした。プロ野球内外での明るい将来像の構築は、新たな世界に飛び込もうとする未来のスターたちの背中を押すことにつながるはずだ。

今年もドラフトで多くの選手が指名されたが、セカンドキャリアも考えていくことも重要だ[写真=川口洋邦]

日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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