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第53回 「侍」会社がスタート――コミッショナーが社長?ぬぐい切れない不安な船出

 

 株式会社NPBエンタープライズ」が11月7日に設立され、同日に東京都港区の日本野球機構(NPB)事務局内の社内で第1回取締役会が行われた。初代社長に就任した熊崎勝彦コミッショナーは、会議後「記念すべき第一歩を踏めたことにホッとしている」と、新しい船出の感想を述べた。

 新会社は日本代表「侍ジャパン」事業の推進を軸とした利益追求が目的で、NPBとプロ野球12球団がそれぞれ3000万円と各500万円の計9000万円を出資。第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が予定されている2017年まで約40億円の収益を見込んでいる。アマ球界から、全日本野球協会の内藤雅之専務理事が顧問に就任。プロ・アマ一体となった野球普及活動を掲げ、一般社団法人のNPBでは制約の多い収益分配を目指している。

▲「株式会社NPBエンタープライズ」で“結束”を誓った首脳陣(左から赤星憲広アンバサダー、鈴木義信全日本野球協会副会長、熊崎勝彦社長、小久保裕紀監督、写真=大泉謙也)



 主な収入源は侍ジャパンの国際試合の興行、放映、グッズ販売など。初事業は「2014 SUZUKI 日米野球」(12日開幕、京セラドーム大阪ほか)となった。同大会で行った有料方式のインターネット中継をはじめ、デジタル時代に対応した新たな戦略も今後は展開する予定だ。

 新会社立ち上げは、機構改革の柱の一つ。球界全体によるビジネスの重要性を訴えていたパ・リーグを中心とした球団サイドの念願だった。昨年の統一球問題を発端にコミッショナーのガバナンス(組織統治力)不足が問題視され、同時に「NPBが積極的にビジネスにもかかわるべき」という声が強くなったことが発足のきっかけとなった。

 今年の初め、球界トップとなった熊崎コミッショナーは、ガバナンス強化のための組織再編成とは別に、球界ビジネスに携わるための事業形態の創出を目標に掲げた。12球団は話し合いの末、収益事業に最も適しているとして株式会社の発足を決定。各球団がそれぞれ事業に参画し、配分を得るシステム構築にこぎつけた。

 毎日のようにNPBに姿を見せる熊崎コミッショナーは、新会社の設立準備小委員会をはじめ、各会議でリーダーシップを発揮。精力的な取り組みは、歴代のコミッショナーとは一線を画している。だが、同コミッショナーは、設立ギリギリまで新会社のトップになることに難色を見せていた。「しかるべき方を、できるだけ早く皆さまに紹介できるようにしたい」と、スタートは“暫定的な社長”であることを示唆している。

 加藤良三前コミッショナーの後任が決まったとき、熊崎コミッショナーは役職に求められる権限について、自身の考えを明確に示している。「コミッショナーの役割は本来、紛争等が起きたときの裁定が中心」と語り、ビジネスをも範疇とする声に異議を唱えた。ただ、収益活動については「重要」とし、球界の積極的なビジネス展開に賛同。その経緯もあるだけに、自身の社長就任は“筋が違う”という思いもあるのだろう。

 収益分配の必要性を訴えていたはずの12球団が、その新システムのための確固たるトップを擁立することができなかったことに問題がある。主導権と責任は誰にあるのか。球界ビジネスという新基軸を打ち出しながら、不安な船出の感がぬぐい切れない。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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