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第54回 統一球がもたらしたもの――アプローチで次第で伸ばせるスキル

 

 日本野球機構(NPB)が新設した株式会社NPBエンタープライズの初仕事となった「2014 SUZUKI 日米野球」(11月12〜18日)は、プロ野球日本代表「侍ジャパン」がメジャー・リーグ(MLB)オールスターに24年ぶりに勝ち越す結果に終わった。

「アメリカチームは、2017年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも強敵となる。強化試合として、勝ち越しは当初からの目標だった。うれしい」。小久保裕紀監督は、素直に喜んだ。

 今回のシリーズで顕著だったのが、打線の活発さ。パワーとスピードが売りだったMLB打線にも引けを取らなかった。ジャスティン・モーノー(ロッキーズ)、エバン・ロンゴリア(レイズ)ら大型選手の一発の破壊力はすごいが、「侍」たちで目立ったのが打球の鋭さ。野手の間を抜けるスピードは、メジャーに勝るとも劣らないほどだった。MLBを率いたジョン・ファレル監督(レッドソックス)は、「日本の打者が優秀だということは知っている。だが、打球が想像以上に力強く、伸びていくことに驚かされた」と感想を漏らした。

▲日米野球でも柳田らがメジャーに引けを取らない鋭い打球を飛ばした[写真=高原由佳]



 日米野球が開催されていなかった7年間で、体格的に不利だった日本の打者がパワフルに変身したのか。バッティングが変わった要因として挙げられるのが、11年から導入した統一球だという。

 今回の日米野球では、WBC公認球とスペックが同じアメリカのローリングス社製を使用した。「その球で鋭い打球を飛ばせるようになったのは、われわれがシーズンで使用している統一球の影響がある」と、小久保監督は断言。3年前に統一球を使用し始めたとき、打者は飛ばなくなったボールに一様に戸惑った。

 それに対応するため、各打者が試行錯誤することになり、「前に力強くはじき返すための打撃を見つけざるを得なくなった」(同監督)と分析。

「われわれが国際試合のときに飛ばないことで受けた衝撃は、今の選手は感じないはず。むしろ、今回のシリーズで使用したボールの方が、統一球よりも飛ぶという印象がある」と語った。

 今シーズンまで日本ハムでプレーした「侍」の稲葉篤紀打撃コーチも、統一球導入後に「打者が飛ばないボールに慣れてきたから」と証言。

「僕自身はバッティングを崩すことが怖かったから、あえて統一球を意識しないようにした。ただ、腰を使った基本に忠実な打撃はしないと前に飛ばないという考えはあった」と語る。

 フェンスの向こう側にケタ外れの打球を飛ばすという、筋力の長けた外国人選手とのパワフルなバッティングとは一線を画す。野手の間を鋭く抜く打球を各選手が追求した結果、日本人が目指す“スモールボール”に磨きがかかった。

 今回、メジャーと互角に渡り合ったように見えたとはいえ、MLBチーム側に親善試合の感があったことも否めない。MLBは3連敗直後の第4戦(東京ドーム)で先発のクリス・カプアーノ(ヤンキース)が、公式戦ばりの緩急を駆使。その途端に打線が沈黙するなど、まだ日本が本場に追い付いたとは言えない。ただ、アプローチ次第でスキルは伸ばせる。8年ぶりの日米決戦と統一球を通して、それが浮き彫りとなった。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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