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第55回 コミッショナーへの通知表――球界ビジネスの構築とNPBの機構改革

 

 日本野球機構(NPB)の熊崎勝彦コミッショナーが、精力的な球界改革に取り組んでいる。11月7日には、新設された「株式会社NPBエンタープライズ」の代表取締役社長にも就任。日本代表「侍ジャパン」を軸とした史上初の球界ビジネスの長として、NPBトップとの“二足のわらじ”を履くことになった。

 新会社のNPBエンタープライズについて、熊崎コミッショナーは「ホッとしていると同時に、球界初の試みを成功させないといけないという気持ちがある。収益はアマに還元し、野球の底辺拡大と振興のために役立てたい」と、プロ・アマ一体の事業であることを強調。収入源は、「侍」の国際試合のチケットをはじめ、放映権、グッズ、インターネット配信などを考えており、2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)まで約40億円の収益が目標。「2014 SUZUKI 日米野球」(11月12〜18日)が初事業となり、来秋開催予定の世界野球ソフトボール連盟(WBSC)主催の国・地域別対抗戦「プレミア12」の運営の可能性も模索。現在、来春のキューバ代表を迎えての強化試合など各種イベントを調整している。

 熊崎コミッショナーが取り組んでいる球界ビジネスと両輪をなしているのが、NPBの機構改革だ。昨年の統一球問題で隠ぺい性と二重構造が指摘されたNPBの体質を、体制強化による解消で模索。事務局を管理、事業、野球運営の「3本部制」に再編成し、情報の共有化ができなかった縦割りの弊害を排除。新たな部署としてメジャー・リーグ機構(MLB)との連絡などを担う国際部や、一般社団法人の機構会長でもあるコミッショナー直属の会長室と、野球振興室を設置した。

 熊崎コミッショナーは就任以来、深く機構にかかわっている。ほぼ毎日NPBに出勤し、新会社、機構強化の委員会を中心に、会議に頻繁に出席。積極的に発言するなど、リーダーシップを発揮している。事務局入り後は、新聞各紙や関係雑誌の熟読が日課。「現場で何が起こり、皆さんが何を考えているのか情報収集したい」というのが理由だ。NPBは今年から、コミッショナー専用に新聞各紙の契約を追加した。

 元東京地検特捜部長の熊崎コミッショナーは、歴代のコミッショナーとは“異質”の存在だ。「私は現場の人間」というのが口グセのとおり、単なるお飾りのトップであることに我慢できない様子。まさに現場からのたたき上げらしく、パーティーやイベントのあいさつだけにとどまってはいない。

 対話路線を打ち出し、その豪放磊落かつ細やかな気配りに、事務局内が非常に明るくなった。当初、就任に懐疑的だった一部のパ・リーグ球団も、行動力に対して大いに期待を寄せるようになった。過去のコミッショナーのリーダーシップに不満を訴えていた日本プロ野球選手会(嶋基宏会長=楽天)も、まずは歓迎の意思を示している。

 熊崎コミッショナーが今年1月に就任して、まもなく1年が経とうとしている。公約の「事業会社と機構強化」のためのハードの創出は果たした。通知表をつけるならば、まずは「優」をつけても異論はないだろう。次の学期は、それを生かしてどう運営していくのか。ファンを含め、球界全体で見守っていきたい。

▲今年1月に就任してから間もなく1年が過ぎようとしている熊崎コミッショナー。意欲的に仕事に打ち込む姿勢に好感が持てる[写真=BBM]

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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