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第56回 ルールのはざまで――再検討すべき時期に来た海外FA&ポスティング

 

 今年取得した国内フリーエージェント(FA)権の行使を表明しているオリックス金子千尋が、視野に入れていたポスティングによる海外移籍を見送った。金子は11月24日、「今オフのポスティングはしない方向で考えている」と述べ、球団にも意思を伝えたと説明。来年以降については、「今年以上にメジャーに挑戦したいという思いが出るかもしれない」と含みを持たせた。

 16勝5敗、防御率1.98で最多勝、最優秀防御率の2冠を獲得。投手の最高峰の賞である沢村賞に輝いた球界を代表する右腕の動向は、シーズン前から話題となっていた。金子に対しては当初、一部関係者に「メジャーよりも国内志向が強い」ともささやかれていたが、国内FA宣言をした際に「すべての可能性を考えたい」とポスティング制度の利用も示唆。俄然、注目を浴びることになった。

▲MVPに輝くなど大活躍だった金子のFAはさまざまな波紋を呼んだ[写真=小山真司]



 今回の金子のケースでは、国内FAとポスティングという2つの制度を同時に利用できる現状ルールの“はざま”がクローズアップされた。国内FAでの移籍は、国内のプロ野球12球団に限定。これにポスティングを併用すると、メジャー・リーグ機構(MLB)傘下の30球団を含む国内外42球団への移籍が可能となる。13年に改定されたポスティングは、メジャー移籍を希望する選手と、獲得の意思を示した球団が自由に交渉できる。2制度の合わせ技により、事実上の「限定解除FA」となる。

 海外FA権は、原則として8シーズンで取得できる国内FA権を得た者が、さらに1シーズンの出場選手登録日数を満たした場合に取得できる。元来、FAとは選手の権利であるが、ポスティングは球団の権利である点が大きな違いだ。海外FAを持たない選手がメジャー挑戦を希望している場合、球団が移籍金と引き替えにポスティングによる移籍の可否を判断する。

 金子のように国内FAしか持っていない選手が、国内の移籍をちらつかせながら、本来は球団の権利であるポスティングを迫るという方法も可能であることが、今回のケースで浮き彫りとなった。日本野球機構(NPB)では、「ルール上は問題ない」としているが、道義的には首をかしげざるを得ない。

 金子の今年のポスティング断念で、とりあえず一次的な混乱は免れた。だが、来年以降もメジャー挑戦の可能性は消えず、問題は持ち越しとなっている。国内FAを行使した金子は、海外移籍ができるFA権は早ければ4年後。もし、来オフにもメジャー希望を打ち出したなら、ポスティングによる移籍に限られる。どうしても獲得したい球団は、当然次年度のポスティング容認を提示して交渉するだろう。FAとポスティングという制度が、本来の主旨とは違う思惑で利用されるのには違和感がある。

 そもそも「国内」と「海外」の2つのFAがあることに無理がある。巨人、オリックス、ソフトバンクなど、ポスティング制に否定的な球団もある。関係者の利益になるよう別々に作られたルールではあるが、じっくりと再検討すべき時期に来ている。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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