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日本球界の未来を考える

第59回 グラウンド内の改革に乗り出すNPB

 

古くて新しいもの


 プロ野球が81回目の春を迎えた。日本野球機構(NPB)が昨年11月に設立した日本代表「侍ジャパン」事業を軸とした株式会社「NPBエンタープライズ」の社長に、日本テレビから今村司氏(54歳)が1月1日付で就任。新会社は、球界ビジネスで初めて試みる12球団と機構の姿勢を示すシンボル的存在だ。

 NPBは新会社運営のほか、4月本格始動をメドに組織改革にも着手。管理、事業、野球運営の3本部制を敷き、新たな部署として国際部のほか熊崎勝彦コミッショナー直属の会長室と野球振興室を設置した。野球の普及と振興を目的とした、プロ・アマ一体となった新しい試みのための組織は、まずは概要が完成。それを生かした機能的な運営が、今後の課題となる。

 NPBが次に乗り出そうとしているのがグラウンド内の改革。「古くて新しいものではあるが、今年1年を通しての大きなテーマがある」──。熊崎コミッショナーが現在力を入れようとしているのが、「試合のスピードアップ」だ。「昔から球界でよく言われていたことではあるが、腰を据えて検討する必要がある。効果的な方策を考える」と力説。専門のプロジェクトチームを作り、具体案を固める方針だという。

試合の時間短縮など、グラウンド内の改革に乗り出そうとしている熊崎勝彦コミッショナー[写真=高塩隆]


 海の向こうでも現在、試合の長時間化が問題になっている。一番影響しているのが、莫大な放映権をもたらすテレビの意向。予定時間内に試合を収めることが、スポンサーを中心に強く望まれている。「ダラダラとした進行は、ファン離れの原因。メジャー・リーグ機構(MLB)をはじめ、30球団の幹部が真剣に解消する方法を話し始めた」とはあるメジャー関係者。昨年12月にカリフォルニア州サンディエゴで行われたウインターミーティングでも「解決すべき問題」として大きく扱われた。

 投手の投球間のテンポアップをはじめ、走者を背負ったときのけん制、偽投、敬遠の際の球数の簡略化、ベンチからコーチ経由のサイン──など諸々について検討し、ルール改定がなされる話が出ているという。日本はMLBの規則がそのまま適用されるケースがほとんどのため、連動して変える可能性が高い。

 東日本大震災後のエネルギー問題や、正式競技の復活を目指している五輪で必須となっている試合時間短縮の観点からも、スピードアップは日本にとって取り組まなければならないテーマだ。古いようだが、最も差し迫った難題ではある。

 スピードアップに並びメジャーが真剣に向き合っているのが、ヒジの故障の問題だ。近年になって、いわゆるトミー・ジョン(側副じん帯再建)手術が急激に増えていることを問題視。登板過多につながる起用法だけではなく、マウンドやボールにまでに視野を広げて、科学的な原因追及とその対策に乗り出している。

 日本のプロ野球ではメジャーほどではないが、ずっと投手の酷使が指摘されてきた高校野球界でタイブレーク制導入が話題に挙がるなど、選手の負担軽減を真剣に検討。日本高野連では、今春の地区大会で同制度を実施する方針を固めている。

 新基軸を打ち出すことは、関係者のエネルギーを必要とし、少なくはないリスクが生まれる。これらにいかに臨むかが未来を左右する。同時に、過去に積み残してきたものも時代に則してクリアしなければ、球界が前に進むことはできない。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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