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第62回 プロ野球クジの構想――政治家のお手軽なパフォーマンスの道具に終わらすな!

 

 Jリーグや海外のサッカーなどの試合を対象としているスポーツ振興クジ(愛称toto)を、プロ野球やゴルフに導入する案が政府・自民党内で浮上していることが分かった。自民党有志が近く検討のためのプロジェクトチームを発足させる見込みとなっている。

 構想に至った理由には、開催が決まった2020年東京五輪、パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の約1625億円とされていた総工費が、資材高騰などでさらに膨らんできそうな事情が絡んでいる。クジは文部科学省の独立行政法人日本スポーツ振興センターが管轄しているが、対象を広げることで原資を増やし、収益金を施設の整備や選手の強化費等に充てるのが狙いだ。

 クジについては、超党派のスポーツ議員連盟が12年から制度の見直しに着手している。当初、サッカーのJリーグ、ナビスコカップ、天皇杯だけが対象とされていたが、「競技の拡大をすべき」という意見が出て、13年から海外サッカーの試合にまで対象となるよう法改正。五輪開催を受け、さらに人気スポーツであるプロ野球やゴルフにまで広げようとしている。

 野球界では現在、国際野球連盟(IBAF)をはじめ、日本オリンピック委員会(JOC)などを中心に除外されている競技の復帰を目指している最中だ。ゴルフは16年に行われるリオデジャネイロから種目となることが決まっており、あるベテラン議員が「五輪関連の財源として適している」と語るように、自民党では導入に前向き。プロ野球などの理解を希望している。党内では、「バスケットボールやラグビーについても探っていきたい」という声も上がっているという。

▲野球クジに関しても政治家には言いっ放しではなく、真摯に対応してもらいたい[写真=Getty Images]



 プロ野球では、69年に球界を揺るがした「黒い霧事件」の後遺症がいまだ癒えないままだ。公営とは言え、射幸心をあおるギャンブルへの“アレルギー”が一部に根強くある。実現までのハードルは、思いのほか高いのは確かだ。

 政界だけで話すのではなく、まずはプロ野球界も巻き込んで、ともにじっくりと検討するのが筋だろう。政府・自民党は昨年5月、アベノミクスの成長戦略の一つとして、プロ野球の球団数を現在の12から16に増やす、いわゆる「エクスパンション(拡張)」を提案。現行のセ、パの2リーグから4リーグ制に移行し、地域活性化の起爆剤にとする構想をぶち上げた。だが、フランチャイズとなる自治体や親会社となる企業の提示もないまま、話は消滅。日本野球機構(NPB)にも具体的な協力の申し入れもなかった。

 クジに対しては内外で賛否両論あるだろう。だが、新たなファンを開拓し、競技としても爆発的な普及のきっかけとなり得る有効な手段であることも否めない。メリット、デメリットを出し合い、綿密に話し合うことが必要となる。一部の政治家がアイデアを一方的に披瀝するのではなく、NPB(日本プロ野球選手会やアマ球界も含む)側にも発言の機会を与えるなど、責任を持って協議に参画させるべきだろう。密室ではなく、メディアを通じて公の舞台でファンの意見も問うべきだ。

 プロ野球は単なる興行ではなく、今や国民の文化財となっている。ことあるごとに政治家に利用され、お手軽なパフォーマンスの道具に終わらせてはならない。関係者の真摯な対応を期待したい。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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