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第86回 オールスターの意義――選手は究極の個人プレーに専念、運営側はブランド価値向上を!

 

 今年の「マツダオールスターゲーム2015」(7月17日・東京ドーム、同18日・マツダ広島)は、開催前から例年以上の盛り上がりを見せた。特に注目されたのが、両リーグ最多の53万6267票を集めた指名打者(DH)の西武森友哉と、セ先発投手最多の23万1380票を獲得した広島・黒田博樹。2年目の19歳と、メジャー・リーグから日本球界に8年ぶりに復帰した40歳のベテランのファン投票による選出は、夢の舞台への興味を喚起することになった。

 また、パの抑え投手で楽天松井裕樹、セの外野手でDeNA筒香嘉智ら、トッププレーヤーとして確固たるポジションを築いた若手が出場。新鮮な顔ぶれかつ、タレントぞろいの球宴になった。

 選手にしてみれば、夏場の疲れの溜まる時期。ペナントレース佳境に向け、リフレッシュしたいというのが本音だろう。その昔、3試合が行われていたオールスターゲームは、日本プロ野球選手会の申し入れにより、1989年から夏季五輪開催年を除き原則として2試合開催に変更。それでもここ最近も「できれば休みたい」という声が、少なからず漏れてきている。本来は名誉であるべきオールスター出場だが、選手への重荷になっている現実は寂しい。

 表舞台は華やかなイメージが強いオールスターゲームだが、往年の名選手たちはスキルアップのための格好の機会ととらえていた。南海の野村克也がリーグ戦で苦しめられた西鉄の稲尾和久とパの一員としてバッテリーを組んだ際、稲尾が得意としていたスライダー、シュートを執ように要求。セの打者の反応を見て、攻略の糸口を探ろうとしたというのは有名な話だ。

 普段はほとんど接触のない選手の一流の技に近づくチャンスを逃さず、何かをものにしようと必死だった。その道を究めたライバルたちのベンチでのちょっとしたひと言が、現状打開のきっかけになる可能性もあった。今の選手にはそのような発想がないのだろうか。それとも、それほどのスキルを持った名選手がいなくなったのだろうか。

山崎康(中)や筒香(右)など新鮮な顔ぶれも出場するが、自身を存分にアピールしてほしい[写真=松村真行]



 かつては「技術は盗むもの」とされた。しかし、今は他球団の投手間でボールの握りなどを教え合うような時代だ。オールスターゲームは単に“祭り”という意識なら、無理をしてまで「出たい」という気になりにくいのかもしれない。それなら公式戦での犠牲的精神を一時忘れ、究極の個人プレーに専念すればいい。160キロの速球、特大のホームランを狙うなど持ち味を前面に押し出し、自分のために存在感をいかんなくアピールしてほしい。それがリーグ戦とは違うファンサービスになる。

 交流戦の実施でセ、パの対戦に新鮮味がなくなったのなら、別のチーム編成を検討してはどうか。例えば、外国人登録の選手のチームとセ、パ混成、30歳以上のベテランと29歳以下の若手の対戦─など、関係者がアイデアを出し合えばいい。4年に1度のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の中間年にプレミア12が行われるが、それら国際大会の開催に合わせ、常設された侍ジャパンを出場させるという手もある。本番前に代表候補が実戦をこなす意義は大きいし、球宴にもアクセントが加わる。

 メジャー・リーグが1試合開催でそのステータスを保っているように、2試合制の妥当性についての議論も必要だろう。主役である選手たちの意識も大事だが、オールスターゲームのブランド価値を上げることは、12球団をはじめ日本野球機構(NPB)など運営側の責任でもある。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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