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第97回 高校野球の危険性――真夏の炎天下での過酷な大会、取り返しのつかないことが起こる前に

 

 高校野球100年」を記念した第97回全国高校野球選手権大会が、出場全49校による熱戦の幕を閉じた。主役となったのは、早実の1年生スラッガー・清宮幸太郎、東海大相模の150キロ左腕・小笠原慎之介ら、注目の選手たち。今年も出現した“甲子園のスター”たちのおかげで、夏は盛り上がった。

 気になるのは、猛暑による熱中症の猛威だ。初日第2試合の岐阜城北-中京大中京戦では、8回に河田航平外野手がグラウンドで座り込み、その後交代。4日目の第1試合の津商-智弁和歌山戦では、好投していた津商の坂倉誠人投手が両手のけいれんを訴え、7回途中に降板した。その日第2試合の創成館-天理戦では、中島崇二内野手が両足に異常を訴えて医師がドクターストップ。9回の守備から交代している。

 それ以外にも試合中に足がつる程度の軽いものから、医師の治療が必要な重い症状まで、連日のように熱中症に見舞われた選手が続出。大会本部は水分補給や日陰での休息など防止策を頻繁にアナウンスしたが、事態の根絶とまではいかなかった。

 試合中、ベンチに“避難”できる選手たちはともかく、炎天下のアルプス席で応援する観客にとっては、まさに命がけだった。吐き気や頭痛など変調を訴えた観客が運ばれた救護室は、常に満員状態。部屋に入り切れないときもあった。生死にかかわる事態に至らなかったのが、ラッキーだったとしか言いようがない。

酷暑の甲子園、8月9日の第1試合では好投してい津商の坂倉誠人が7回途中に両手のけいれんを訴えて降板した[写真=太田裕史]



 環境省では熱中症予防の指針として、摂氏35度以上を「運動は原則中止」として「特別な場合以外は運動をしてはならない。特に子どもの場合は中止すべき」と定めている。サッカーJリーグでは近年、下部組織の高校生世代の選手については、夏場の炎天下での試合は控えさせようという気運が高まっている。夏に来日した欧州のチームが、尋常ではない暑さに「スポーツをやるコンディションではない」と訴え、試合が中止になったケースもある。サッカー界では、過酷な環境下でのプレーは「常識外」。なぜ、高校野球だけが看過されているのか、大いに疑問が起こる。

 おかしいのは、内部関係者から「検討すべき」という意見が挙がらないことだ。まだ軽い症状しか出ていないとはいえ、異常気象が進み、真夏の大会は死に至る可能性もある。「聖地」での炎天下での過酷な大会こそが高校野球の醍醐味と信じている関係者も、実際に多数存在する。だが、ドーム球場の使用や、暑い時間帯を外して開催するなど、改善策を適用してほしい関係者も少なからずいるはずだ。

 政府が成立を強引に決めようとしている安保法制に対し、「子どもたちを戦争に送ってはいけない!」と声高に叫んでいる新聞社をはじめとしたメディアも、夏の高校野球の危険性については、ほおかむりを決め込んでいるかのように見える。全国の学校も、絶大な権力を持つ日本高校野球連盟(高野連)にもの申すことを遠慮しているのだろうか。取り返しのつかない事態へのサインが目立つ中、このまま放置されるべきではない。

「聖地」だろうが、心身ともに未成熟な高校生を過酷な状況に飛び込ませ、自己犠牲を強いることは、決して“美談”ではない。そんな状況を是とする風潮も、危うさをはらんでいる。誰かの保身やしがらみのために、周りの意見を一切認めないというムードは怖い。選手をはじめ、関わる関係者が疑問を感じなくなることが何よりも危険だ。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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