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日本球界の未来を考える

第99回 動き出した五輪復帰

 

成功のためにはこれまで以上のプロ・アマ球界一丸となった協力体制が不可欠


 2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会は9月末、国際オリンピック委員会(IOC)に「野球・ソフトボール」「空手」「スケートボード」「スポーツクライミング」「サーフィン」の5競技18種目を、追加競技・種目として提案することを決めた。来年8月に開催するリオデジャネイロ五輪直前のIOC総会で審議の結果、最終結論が出る。提案が認められれば、08年の北京五輪以来の復帰となる。

 野球界の悲願達成が、手に届くところまできた。アマチュアを統括する全日本野球協会の鈴木義信副会長は「ホッとした」と、安堵の表情。東京五輪の大会組織委のヒアリングで、プロ側の重鎮として「普及のためには、ぜひとも五輪復帰が必要」と力説したプロ野球ソフトバンク王貞治球団会長も、まずはひと安心。「日本で開催される大会で、国民も熱望している。まだ最終決定ではないが、大きな前進となった」と喜んだ。

野球・ソフトボールは2020年の東京五輪で08北京以来の競技復活を目指しているが……[写真=Getty Images]


 日本において、野球は「国技」とされるほど人気が高い。世界的にトップ級のソフトボールとともに、金メダルの有力候補として大会の盛り上がりに大きく寄与することは間違いない。会場に適した既存スタジアムも多く、膨大な設備投資は基本的に不要。数万人単位の集客力と大型スポンサーが見込めることから、IOCとしても願ってもない“コンテンツ”となる。

 一方、課題も山積みだ。「コンパクトな五輪」を目指すIOCは、追加競技の選手数上限として、約500人の枠を示した。組織委はその枠内に5競技18種目を収めたため、それぞれの競技の参加人員が極端に制限された。野球は北京五輪に8チームが参加したが、東京五輪の提案数は6チーム。提案どおりなら、出場チームの半数がメダル獲得となる。東京以降、実施の意義が問われかねない。

 また、過去の五輪でもそうだったように、本場アメリカのメジャー・リーグ機構(MLB)の国際大会への非協力的な姿勢がネックとなりそうだ。MLBは、今年11月に開催される国・地域別で世界一を争うプレミア12でも「各30球団の登録枠40人のメジャー契約選手の不参加」の意向を示している。プロを中心に出場が予定される侍ジャパンも、田中将大ダルビッシュ有らメジャー組抜きの戦いを強いられるのは痛い。スポーツの祭典で世界最高峰のパフォーマンスを見ることができないのは、ファンにとっても興ざめだ。MLBが自身のリーグ優先の考えを貫くなら、再び“除外”の気運が高まるだろう。

 五輪復帰をアピールする際、国際野球連盟(IBAF)は、時間短縮のための「7回制」を提案。これについては「野球でなくなる」という関係者の反発もあり、うやむやなままに取り置かれていたので、IOC側が納得できる形で詰める必要がある。

 遠藤利明五輪担当相は、野球・ソフトボールの1次リーグを東日本大震災の被災地である福島県などで開催する要望を打ち出した。実現すれば、東京電力第1原発事故に対する国際的な懸念を払拭する手助けとなり得るし、被災地にとっても有形無形の復興の起爆剤となる。五輪での野球の成功のためには、大会組織委だけではなく政府や、これまで以上のプロ・アマ球界一丸となった協力態勢が不可欠だ。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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