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日本球界の未来を考える

第100回 誤審の余波

 

審判の尊厳確立のため、ジャッジのレベル向上などやるべきことは多い


 勝負の世界は結果がすべて。「たら」「れば」は禁句だが、どうしても抑えられないときもある。そんな気持ちになるのが、今年のクライマックスシリーズ(CS)を逃した広島の「0.5差の悲劇」だ。

 シーズン最終戦となった10月7日、広島は中日と対戦。勝てば、全日程を終えていた3位阪神を逆転となった。だが、エース・前田健太の7回無失点の熱投も実らず、0対0の8回に大瀬良大地が打たれ3失点。打線もわずか1安打と振るわず完封負けを喫し、目前のCSを逃した。

 阪神との差は0.5で今シーズンを終了。この数字が、延長引き分けに終わった9月12日の阪神戦[甲子園]を思い出させることになった。2対2で迎えた12回、一死から田中広輔が放ったのは左中間への大飛球。フェンスを越えたかに見えたが、審判は「入っていない」と判断。審判団はビデオでの確認に移ったが、判定は覆らなかった。

勝てばCS進出が決定した最終戦で敗れた広島。結果的に“誤審”で落とした試合が痛かった[写真=佐藤真一]


 判定直後、緒方孝市監督をはじめ広島ベンチは色めき立ったが、ビデオ判定を経ての決定に「それが結論なら仕方ない」と納得。三塁打で試合再開したが、広島はその後得点できず、勝利を奪うことはできなかった。

 メディアの報道写真などさまざまな角度から検証すれば、ホームランだったことは確実。勝ち越した広島が勝った可能性は高い。シーズンの最終公式成績は、3位阪神が70勝71敗2分けで、4位広島が69勝71敗3分け。「あれがホームランと判定されていれば、CSに出られていたかも」と考えるのは、至極当然のことだろう。ペナントレースの結果は143試合という長丁場すべてのものであり、1つの試合だけで決まるわけではない。だが、「ここ!」と重要な瞬間も必ずある。

 当該ビデオ判定での結論に関してあえて言えば、ルール上は間違っていない。際どい判定に対するビデオ判定があり、その判断に対しては「抗議しない」というリーグの申し合わせ事項がある。広島の鈴木清明球団本部長は「規則どおりに運んでの結論だから、仕方ない」として提訴等の意向を否定。「改める点があれば、今後のためにそうしてほしい」と要望するにとどめている。もちろん判定に至る審判のスキルの問題もあるが、それは別の話だ。

 日本野球機構(NPB)側が誤審を認め、熊崎勝彦コミッショナーが「あってはならないこと」と陳謝したことが、事態を複雑化しそうだ。誤った判定を内部的に正すのは今後のためにも必要だが、誤審と断言して謝るのは、混乱を招く。審判の判定は絶対であり、極論すればたとえそれが誤りだったとしても変わりはない。試合と記録は成立しており、その野球というスポーツの“不文律”を曲げれば、何かと支障が出てくる。

 球界トップが誤審と断言すれば、勝敗の結果も審判の存在価値も揺らぐ。CS出場権もそうだが、広島だけではなく阪神もオフの契約更改で球団と選手の査定解釈の相違から一悶着起きかねない。各球場のお粗末な判定機材を改め、メジャー・リーグが試みている数億円のハイテク機材と多数の人員を投じたビデオ判定に移行すべきという議論も出てくるだろう。だが、不確定な“ヒューマン・ファクター”が数々のドラマを生んできたのも事実。審判の尊厳の確立という大前提はどうすればいいのか。その前にジャッジのレベル向上や判定のしづらい環境の整備など、やるべきことも多い。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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