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日本球界の未来を考える

第101回 変わりつつあるドラフト戦略

 

なくなりつつある選手の選り好み、球団のフランチャイズ意識も特徴的


 今年もプロ野球の新人選手選択会議(ドラフト会議)が終了した。高校生では、150キロを超える本格派右腕の高橋純平(県岐阜商)、今夏の甲子園優勝投手となった左腕の小笠原慎之介(東海大相模)、高校生No.1遊撃手の平沢大河(仙台育英)、50メートル5秒台を誇るオコエ瑠偉(関東一)らが話題の中心。大学・社会人では、48年ぶりに東京六大学記録の127安打を更新した高山俊(明大)らに注目が集まった。

 本場のメジャー・リーグでは、ドラフトは長期展望に立った“素材”を求めるための補強という意識が強い。だが、日本の場合は、遠くない未来の“即戦力”獲得の場となる。学生、社会人でハイレベルの全国大会がある日本のアマ球界は、完成度の高い選手が多い。それだけに、戦力地図を塗り替えかねないドラフトの戦略は、各球団で最も重要な仕事となっている。

 かつて西武やダイエー(現ソフトバンク)で編成責任者などを務め、幅広いネットワークと優れた獲得手腕から「球界の寝業師」と呼ばれた故・根本陸夫氏のドラフト戦略は、単純明快に「No.1選手を獲得する」だった。

 根本氏は西武時代に秋山幸二伊東勤工藤公康らを入団させ、ダイエー時代に小久保裕紀城島健司井口忠仁(現資仁)、松中信彦ら、当時アマで高い評価を受けていたトップ級を次々に獲得。時には大学や社会人に進むとされた選手まで、強引に取りにいった。

 そのときの手薄なポジションを穴埋めするという、付け焼き刃的な補強を否定。将来を見据え、球界を背負うポテンシャルを秘めた選手を獲得することが、チーム基盤の強化につながるという哲学があった。

 その考えに近いチームの1つが日本ハムだ。2012年ドラフトで、当時メジャー志望を表明していた大谷翔平を強行指名。その後の説得が実り、見事入団にこぎつけている。入団こそかなわなかったが、06年に長野久義、11年には菅野智之(ともに現巨人)を指名。「欲しい選手を取りにいく」という、ドラフト本来の目的を達成しようとする姿勢は今も揺らいでいない。他球団が獲得に尻込みしがちな“一本釣り”確実な状況に挑むなど、しがらみや複雑な事情に縛られない姿勢を評価する声は多い。

 04年オフの球界再編を発端として球団が全国に分散し、一定球団に人気が偏らなくなってきたことも、ドラフト戦略に影響を及ぼしている。進学や海外挑戦が主な選択肢になり、球団の選り好みは、かつてほどなくなりつつある。「指名されればどこでも」という選手が多くなったのは、戦力均衡化をうたったドラフトが正常に機能するためにもいいことなのだろう。

最近は各球団のドラフト戦略も変わりつつある[写真=BBM]


 近年の特徴的なのが、球団のフランチャイズ意識だ。楽天は今年、高校生屈指の内野手、地元・仙台育英の平沢大河の指名を早くから公表(抽選でロッテへ)。地域に密着した球団を打ち出している。人気球団の阪神も、近年は地元選手の獲得をドラフトのテーマとしてアピール。同球団の佐野仙好統括スカウトは「同じ力なら、関西出身の選手を取る」と明言している。

 球団の編成に対する考えは、時代とともに変わってきた。だが、選手の自由意思が介在できないドラフト制度は、これからもさまざまなドラマを生むことだろう。フリーエージェント(FA)期間の短縮などとリンクし、今後も関係者の議論が重ねられなければならない。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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