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日本球界の未来を考える

第104回 あいまいなFA制の整備を!

 

宣言残留は認めない?「権利侵害」とも取れる関係者の介入を見過ごすな


 フリーエージェント(FA)について、ヤクルトの衣笠剛球団社長が権利行使をした上での残留に否定的な見解を示した。報道によると、「(FA権行使のために)手を挙げたのに、ダメなら球団に残してくださいというのは、虫が良過ぎる」と発言。他球団との交渉も視野に入れた来季契約の話し合いは、歓迎しない意向を明らかにした。

 今年の12球団のFA有資格者は95人おり、ヤクルトは四番打者の畠山和洋ら6人いた。衣笠社長の発言が影響したのか定かではないが、結局畠山はFA権を行使しないまま残留を決定。だが、当初「大前提は残留だが、他球団の評価も聞いてみたい」という考えも伝えられていただけに、今一つすっきりとしない結末となった。

ヤクルトの衣笠球団社長がFA宣言残留を認めないと発言、それが影響したのか畠山は権利を行使することはなかった[写真=田中慎一郎]


 球団にしてみれば、移籍を盾に契約更改交渉で年俸等の釣り上げをされては困る。これまでスキルアップのサポートをし、プレーの場など好環境を与えてきた球団に対し、忠義を見せてほしいという心情も分かる。ヤクルトに限らず、これまで「移籍含みのFA宣言をしたら、その時点で残留は認めない」と公言してきた球団も少なくない。FA制度は選手側の経営者側への長年の要望が通じ、1993年オフから導入された。その後幾度か改定され、現在は取得年数8年の国内FA(一部7年)と同9年の海外FAがある。

 そもそもFAとは、他球団へ自由に移籍できるルール。実働年数など一定の条件を満たした選手の権利であり、その果実は選手に与えられるべきものだ。経営者側が権利行使について口を挟むべき問題ではない。行使するか否かが球団に対する“踏み絵”にすり替えられ、制度が形骸化されているとすれば嘆かわしいことだ。

 選手のためであるはずのFA制は、現実には経営者側の意向で左右されるルールとなっている。高額年俸をもらう一部の選手がFAで他球団に移籍した場合、球団には金銭や代替選手の見返りがある。補償がないメジャー・リーグ挑戦を希望している選手に対しては、FA権を取得する数年前にポスティングシステムを使い、上限で2000万ドルの譲渡金を得ることも可能。経営者ができるだけダメージを負わない仕組みが出来上がっている。

 メジャー・リーグ機構(MLB)では、FAの取得年数は6年。選手は権利行使を表明しなくても自動的にFA扱いとなり、「フリーエージェント」の本来の意味である「自由契約」ができる立場となる。5日間の独占交渉期間を持つ前所属球団と条件が折り合って再契約してもいいし、その後、他球団と新たに契約を交わしてもいい。補償金などは発生せず、単純明快でビジネスライクな契約のための交渉だけが介在する。

 独立戦争以来、自由を積極的に勝ち取ってきたアメリカと、終身的な雇用が期待できる日本との歴史的な風土や文化は、一概には比較できない。莫大な放映権料などが球団側に入るシステムのアメリカとは違い、年俸が高騰化するFAへの対応への防衛策を施さなければならない日本の事情もあるだろう。だが、FAは選手の正当な権利のはず。「権利侵害」とも取れる関係者の介入が、当たり前のこととして見過ごされてはならない。もっと選手やルールに対する“リスペクト”があってもいい。

 導入22年を迎え、FAの「移籍の自由で、球界に活性化を与える」という当初の目標は、色あせてきた感がある。このままでいいのか、それとも改革すべきなのか。選手側が自由の享受をより広く受けるためには、年俸の最低金額や減額制限の見直しなど、リスクも背負った制度変更の議論も必要となってくる。国内移籍だけではなくなった今、ポスティングやドラフトも絡め、あいまいなルールの整備が求められている。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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