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第111回 東京五輪での野球復帰の可能性と今後の課題

 

「野球をないがしろにすべきではない」というムーブメントを起こすことが重要


 五輪の正式競技から除外されていた野球の、復帰へのカウントダウンが始まった。追い風となっているのは、2020年の東京開催。8月のリオデジャネイロ五輪前に開かれる国際オリンピック委員会(IOC)総会で結論が出される見込みで、実施されれば08年の北京五輪以来。ソウル五輪の代表監督を務めた全日本野球協会の鈴木義信副会長は「プロ・アマ一体となって最善の準備をする」と、悲願の成就へ期待を膨らませている。

 野球復帰への道は、14年12月のモンテカルロでの臨時総会で可決された五輪改革案の「アジェンダ2020」で開かれた。五輪開催都市がその大会に限り種目の追加を提案できるようになり、それまでの夏季五輪の上限だった28競技の枠を廃止。種目単位で追加できるルールに変更され、野球はソフトボールと統合した1競技として、空手、ローラースポーツのスケートボード、スポーツクライミング、サーフィンとともに実施が提案された。

 アジェンダ2020の趣旨から言っても、提案された競技が採用される可能性は極めて高い。特に野球は日本で絶大な人気があり、集客能力、放映権、スポンサー獲得など多大なメリットがある。既存のスタジアムも多く、新たな設備投資の必要もない。商業的価値を重んじるIOCにしてみても、文句なしの最良質のコンテンツと言える。

メダルなしに終わった08年北京五輪を最後に正式競技から外された野球。20年東京五輪に向け復活へのカウントダウンが始まっている[写真=Getty Images]



 世界最大のスポーツイベントである五輪への参加は、グローバル化を進める野球にとって必要不可欠な条件だ。それだけに今回の決定が球界の将来を左右すると言ってもいいのだが、課題は少なくない。東京五輪以降の大会で、野球が引き続き行われるかどうかが不透明だからだ。

 野球の復帰がかなったとしても、五輪から再び除外される可能性は低くない。残念ながら、野球人気は現在アジアや中南米など一部地域に限られており、開催地次第では盛り上がりに欠けることが予想される。むしろ設備等など開催国・地域の負担が大きく、開催を嫌がるケースが多いと見たほうがいい。だからこそ、東京五輪において野球開催の意義を見せ付けることが大事だ。

 正式なアナウンスはまだないが、17年春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を過去3大会以上に盛り上げる必要がある。その2年後に開催され、五輪復帰が決まった場合に五輪予選を兼ねる構想が上がっている第2回プレミア12も同様だ。日本の侍ジャパンをはじめ各国・地域が、どの大会でも最強チームを編成し続けなければ意味がない。メジャー・リーガーの供出を渋るなど国際大会に非協力的な姿勢を崩さないメジャー・リーグ機構(MLB)の切り崩しも今後に向けての重要なポイントとなる。「野球人気の高い日本での五輪開催に興味がある」と発言しているロブ・マンフレッドMLBコミッショナーの真意は何か。五輪だけではなく、将来を見据えた包括的な議論が望まれる。

 東京五輪へ向けて地球規模の野球振興を図るのと同時に、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)を中心に、球界の組織力や経営的基盤に揺るぎないことを対外的にアピールしなければならない。「野球をないがしろにすべきではない」というムーブメントを起こすことが、五輪存続への強力なアシストとなる。(文責=編集部)
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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