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Vol.12 薮田和樹[亜大・投手]
リーグ未勝利の151キロ右腕

 

亜大は今春、専大に次ぐ戦後初のリーグ戦6連覇に挑戦する。その投手陣のキーマンの一人として、東都未勝利の151キロ右腕が密かに注目を集めている。度重なる故障も完治し、あとは全力投球を見せつけるだけだ。
取材・文=氏原英明
写真=阿部卓功



大学入学後に踏み切った決断

 少しの喜びと、多くの悔恨。

 3年春にしてリーグ戦デビューを果たした右腕にとって、昨年1年間はそんな1年だったという。

 薮田和樹は、亜大の誇る“秘密兵器”として、戦後初の東都6連覇のカギを握る男である。「1回戦の先発は山崎(康晃、4年・帝京)だと思うので、2回戦は僕が投げたい。1回戦に先勝、仮に負けても、2回戦はいずれにしても大事な試合ばかりなので、すべて勝ってチームに貢献したい」

 薮田は、そう言って、学生ラストイヤーへ意気込んでいる。

 最速は151キロ。しかし、なぜ、それほどの真っすぐを持ちながら、薮田は大学入学から6シーズンのリーグ戦で一つも勝てていないのか。それは、岡山理大付高時代から悩まされた故障の影響からだ。

 岡山理大付高時代、1年春の県大会からベンチ入りし、亜大でも先輩になった1学年上の九里亜蓮(現広島)と、エースの座を争ってきた。しかし、2年の秋に右ヒジを疲労骨折すると、このときから、薮田の野球人生は歯車が合わなくなってきた。

「手術するという選択肢もあったんですけど、僕が伝え聞いた中では、ヒジにメスを入れるというのは、投手として大きなマイナスになる、と。親とも相談して回避しました」

 だましながらのピッチングで、高校生活を過ごした。結局、エースになることもないまま、不完全燃焼で高校3年間を終えている。

 亜大入学後も、手術はせずに再起を誓ったが、入学してすぐ、また右ヒジを疲労骨折した。そして、その年の冬、ついに手術へ踏み切った。

「生田(勉)監督からも助言を受けました。どちらにしてもダメなら、まずはできることをしようと思った。術後は痛くて、右ヒジの曲げ伸ばしもできなかったので、本当にボールを投げられるようになるのかなと少し不安に思っていたんですけど、ここまで来られてよかったです」

▲東都大学リーグの登板は3年春の2試合のみ。大学選手権で1勝を挙げたものの、実績はゼロに近い。だが、その潜在能力は注目されている



リーグ戦初登板で経験した痛恨の1球

 2年春にボールを投げ始め、投球制限の中、地道に球数を増やした。同年秋には実戦で投げられるようにもなり、昨春のリーグ戦でベンチ入りすると、優勝争いの駒大1回戦で、神宮デビューを果たしたのだった。

 しかし、その初登板はほろ苦いものだった。3対3の9回裏二死一、二塁の場面で救援。指揮官の思惑は「薮田のストレートの勢い」にかけたが、その初球を右中間にはじき返され、サヨナラ負け。薮田のデビューは、痛恨の1球から始まった。

「マウンドに上がった時は、これを抑えたら、相当自信になるだろうなと思っていました。結果、1球で試合を終わらせてしまった。それまでも生田監督から『甘いボールを投げていたら、その1球が命取りになるぞ』と言われていました。それを試合で体感しました。復帰できたのはうれしかったですけど、勝利に貢献できなかったので悔しかったです」

 5番手で登板した同3回戦で自己最速151キロをマーク。同春の大学選手権準決勝(対日体大)では、1点リードの7回裏にリリーフする。8回に追いつかれるも、味方が9回表に勝ち越し“大学初勝利”が転がり込んできた。だが以降、昨秋のリーグ戦、7年ぶりの日本一を果たした神宮大会でも登板機会はなかった。

 とはいえ、昨年1年間は、ほぼ、ケガからの復帰へ向けての準備期間だったという見方もできるだろう。高校時代から常に故障と向き合い、全力投球ができなかったからだ。その中での復帰だった。昨シーズンの実力が、薮田の本来の姿ではない。

「昨年は、本当に、体との戦いでした。投球フォーム関しても、ケガをしてからは、体から離して投げるのが怖くなって、コンパクトになりました。実際は、もっと前を大きくしないといけないので、そこは課題として残っていますね。でも、ケガなく1年を終えられたので、自信になりました。今年は成績を残しに行くぞという気持ちです」

励みとなっている先輩の成功体験

 もっとも、プロの世界への夢を捨てたわけではない。特に、高校時代から近い存在だった先輩・九里がプロ入りしたのは大きな刺激になった。「高校の時は、九里さんとエースの座を争っていました。どうして、こんなに差が開いてしまったのかなって……。でも、東浜さん(巨、現ソフトバンク)が抜けたあと昨年、九里さんが亜細亜でエースになって、リーグ戦で活躍して、プロに入団された。ケガはしましたが、自分にも同じような可能性があるかもしれないと、言い聞かせています」

 1月12日の練習始動日にはNPB4球団が視察。ブルペンでは山崎のすぐ横で、薮田も全力投球を披露した。スリークオーターからの鋭い腕の振りは変則気味で、打者もタイミングを合わせるのが難しそうだ。しかも、球質が重い。スカウトはそのポテンシャルを高く評価。生田監督も「素材では山崎の上」と認めるなど、今後も見逃せない存在だ。

 とはいえ、戦後初、専大に次ぐ2校目の6連覇がかかる今春の登板が保障されたわけではない。エースは山崎が不動の立場も、2回戦の先発以降は、花城直(3年・八重山)らとの激しい競争が待ち受ける。「ゆくゆくは、エースになりたい気持ちもありますけど、僕には実績がないので、まずは2回戦を投げられるように、争いに勝っていきたいですね。春に成績を残して、秋にはエースを争えるようになりたいです」

 故障を乗り越えた右腕。本当の再起をこの春、見せつけるつもりだ。

PROFILE
やぶた・かずき●1992年8月7日生まれ。広島県出身。188cm 83kg。右投右打。矢賀小2年時、広島西リトルで外野手として野球を始める。5年時から投手専任。二葉中では広島安芸シニアに在籍し、3年春からエース。岡山理大付高では、1年春からベンチ入り(背番号18)。2年秋に右ヒジを疲労骨折し、3年夏は背番号11。同春の県大会準優勝が最高成績。亜大では3年春にベンチ入り。最速151キロで変化球はスライダー、フォーク。目標とする投手はレンジャーズ・ダルビッシュ有。東都リーグ通算2試合、0勝0敗、防御率0.00。
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