北海道網走市にある東農大北海道オホーツク。極寒の冬を過ごすのも、4回目となった。この厳しい環境を覚悟の上で選んだ右腕は昨秋、全国舞台での好投によりドラフト候補に浮上。1学年上の先輩エースのアクシデントをチャンスに変えるあたり、勝負運を持った男かもしれない。 取材・文=佐伯要/写真=川本学 スクランブル登板で得たチャンスと信頼感
昨秋の明治神宮大会1回戦。東農大北海道オホーツクが京産大と対戦したときのこと。
先発投手は、
ヤクルトからドラフト2位指名を受けた
風張蓮だった。しかし、風張は右太もも裏を痛め1回降板。戦略上、その真相が明らかとなったのは準決勝後。試合の主役となるべき存在が突然いなくなった状況に、神宮球場の記者室は騒がしくなった。
ところが、直後にそんな空気は一変する。急きょ2回からマウンドに上がった3年生右腕が140キロ台の直球とカーブ、スライダー、チェンジアップを投げ込み、5者連続の空振り三振を奪ったのだ。記者室は、救世主の登場に再び騒がしくなった。
「このチームには、風張のほかにもこんなにいい投手がいるのか」
それが、
井口和朋だった。この試合で3回2/3を無失点に抑えると、上武大との2回戦、駒大との準決勝では先発を務めた。3試合で計12回2/3を投げ、無失点。チーム初の4強進出の立役者となった。井口は、照れながら昨秋を振り返る。
「玉井さん(大翔、今春から新日鐵住金かずさマジック)が後ろにいてくれたおかげです。安心して自分がいけるところまで全力で投げたことが、いい結果につながりました」
1年春のデビュー以来、北海道学生リーグで28試合に登板し、16勝。全国舞台では2年春の大学選手権でも2試合を投げている。その2戦と合わせて、神宮では5試合(18回2/3)で無失点を継続中だ。
そんな井口について、樋越勉監督は顔をほころばせて言う。
「神宮で点を取られていないのは、誇れる経験だと思いますよ。高校時代は無名の投手だったけど、大学でつぼみから花を咲かせた。まだまだ成長すると思うので、さらに大きな花を咲かせてほしいですね」
武相高(神奈川)時代には最速145キロの直球を武器に、3年夏の県大会で8強まで進んだ。進学先に東農大北海道オホーツクを選んだ理由は、3つある。1つは、樋越監督から「北の最果てから日本一を目指そう」と声をかけられ、「やってやろう」と意気に感じたこと。2つめは、高校の1学年上の捕手・池沢佑介(今春からNTT東日本)がいたこと。3つめが・・・
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