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北海道日本ハム西川遥輝は昨シーズン1番に定着して143試合に出場、自身初のタイトルとなる盗塁王を獲得した。はた目からは、2014年は大きな飛躍になった大成功のシーズンに見えるかもしれない。しかし、本人はさまざまな葛藤と戦った苦しい1年間だったという。15年シーズンは一から出直す覚悟で、新たに掲げた大きな目標に向かって突き進む。
取材・文=池田晋 写真=高塩隆、BBM

盗塁王は意味のある盗塁を心掛けた結果


チームの勝利のために走った結果、盗塁王を獲得。中島卓也と息の合った一、二番コンビがさえた



 13年は二塁手で開幕スタメンを勝ち取り、レギュラーに定着。飛躍の年になると思われたが、アクシデントに見舞われた。6月3日の横浜DeNA戦(旭川)で左前十字じん帯付着部剥離骨折の大ケガを負い、2カ月の戦線離脱を余儀なくされた。8月中には1軍に復帰したが、そのころには中島卓也に二塁の座を奪われており、慣れない一塁手と外野手での出場が増えた。持ち前のスピードを生かして22盗塁を決めたが、納得のいくシーズンでなかったはずだ。そして迎えた14年は、5月から一番に定着して、143試合に出場。自身初のタイトルとなる盗塁王を獲得した。

「(盗塁王を)狙ってないことはないですが、意味のある盗塁をしようと心掛けた結果です。むやみに走ったわけではなく、自分の持ち味を前面に出そうと思いました」

 タイトル獲得には中島の貢献も見逃せない。「1番・西川、2番・中島卓」のコンビがうまく機能し、チームの得点源となった。

「卓さんが粘ってくれるので、カウントが整ったときでも走れました。切磋琢磨しながら、1・2番で頑張れたかなと思います。クライマックスシリーズ(CS)でも、4番の中田翔さんが好調だったので、僕らが塁に出れば、何とかなる感じがしましたよ」

複数ポジションを守ったことで広がった視野


 攻撃では持ち前のスピードをいかんなく発揮した半面、課題の守備には苦しめられた。

「(ポジションを)固定し切れなかった自分が残念な部分もあります。できればセカンドをずっと守りたかったですね。でも、いろいろなポジションを守ったこと(編集部注:一塁を51試合、二塁を60試合、外野を68試合)で視野は広がりました。もちろん、難しさはありましたが、あまり深く考え過ぎずに、その時々に自分がやれることを100パーセントやろうと思いました」

 外野手用と内野手用、2種類のグラブを常に用意し、与えられたポジションで全力を尽くした。その中でスピードを生かし、広い守備範囲をカバー。失点を防ぐ好捕で、チームを救う場面もたびたび見られた。

「外野の練習をしてなかったので難しかったです。派手なプレーはできないので、ミスだけはしないように全力でやりました」

 シーズン終了後の秋季キャンプでは三塁守備にも取り組み、新たな可能性を探っている。

「いろいろ挑戦してみて、可能性を広げていく狙いです。今年はまた、どこを守るか分からないので、出場したポジションでしっかりやろうと思います。守備はとにかく練習するしかないですからね」

昨季は12失策。ミスを減らすとともに、どのポジションでもプレーできるように準備している



悩み、葛藤し試行錯誤を重ねた打撃


CSファイナルの第5戦では7回にもう少しで本塁打というフェンス最上部直撃の三塁打で逆転勝利に貢献



 最もこだわりを持つ打撃に関しては、悩みも多く、さまざまな葛藤を抱きながら、試行錯誤を重ねた。3番を任されることもあったが、シーズン途中からは1番に固定された。

「構えは開幕時と終盤で変わりました。力を抜いて打席に入ろうと意識して、だんだん構えが変わっていきました。良い打順を打ちたい気持ちはありますが、あまり打順にこだわりは持ってません」

 昨年、先発が139試合にとどまったのは、ケガなどによる欠場ではなく、スタメンを外されたからだった。ただ、これが大きな転機になったという。

「本当に悔しかったですよ。ずっと試合に出させてもらったのに急に試合に出られなくなって……。でも、そのときに一歩引いた目で試合を見てみようと意識しました。どういう選手がどういう活躍をしているのか。(栗山英樹)監督が自分にどういう役割を求めて、どういう活躍をしてほしいのか、いろいろ考えたんです。1番はこう、2番はこうといろいろ考えて、打ち方も変えて、打席に入るときの考え方も変わっていきました」

 ただ、14年の19二塁打、リーグトップの13三塁打という数字が示すように、西川の持ち味は強いスイングから放たれる鋭い打球である。その持ち味を押し殺して、1番打者として出塁率アップに務めた。塁に出ることを最優先に考え、フルスイングを封印して、確実にミートする打撃に切り替えたのだった。

リーダーとして芽生え始めた自覚


昨季限りで引退した金子誠氏(右)の8番を受け継ぐ。「背番号は軽くなったが、責任は重くなった」



 14年シーズンを戦い、最も成長したのはメンタル面だったのではないか。何よりもチームのことを考え、勝つための最善のプレーを心掛けた。さらに、金子誠、稲葉篤紀の大ベテランが引退。大引啓次(東京ヤクルト)、小谷野栄一オリックス)といった中心選手が去った影響もあり、リーダーとしての自覚も芽生え始めている。

飯山裕志さん以外に野手で年長だった4人が一気にいなくなるのは正直、不安ですよ。今季のチームはどうなってしまうんだろう? という気持ちになります。先輩方には多くのことを学んだので、その経験を自分より若い選手たちに伝えていきたいですね。たとえば、クライマックスシリーズで稲葉さんが打つことによってチームが活気づきました。1本で流れが変わるのはなかなかないことなので、それを実際に間近で見られたのは貴重な経験でしたね」

 CSでは大事な場面で貴重な得点をたたき出した。自信を深め、チームの強さにも手応えをつかんだ。「オリックス、(福岡)ソフトバンクは強かったですけど、その相手に対して粘って戦えたのは、それだけの力がみんなにあるということ。受け身にならず、“勝てる”という強い気持ちを持って戦うことでいい勝負ができる。今年はあのような試合をずっと続けていけたらいいですね。僕自身にとってもすごく大きい経験でしたし、みんなもそう感じていると思います。その経験を今年に生かしたいですね」

強いスイングを取り戻す


春季キャンプまでの間に取り組む課題ははっきりしている。

キャンプまでの期間は、本来の強いスイングを取り戻すことがテーマの一つ



「打撃をもう一度、一から考え直してやっていきます。シーズンが始まったときにどんな打ち方になっているか分かりませんが、自分はバットスイングをしていく中で形を固めていきます。いろいろ考えながら試行錯誤します。昨季途中からバットを強く振らなくなってしまったので、まずはもう一度、強いスイングを取り戻すことからです。もう一度、体に覚えさせ、しみこませる感じですね。キャンプは何かを試すのではなく、競争の場。その前に課題をクリアしていきたいです。いろいろ取り組むことができるのはオフシーズンの時期だけですからね」

 15年を戦う自分の姿も徐々に見えてきており、目標もはっきりと口にした。

「若い選手が増えているので、チームの中心となって、みんなを引っ張っていけるような存在になりたいです。これまで相手に嫌がられる選手をずっと目指してきましたが、プラスアルファで怖がられる選手になっていきたいと思います。盗塁の数は意識せずにやりたいです。タイトルは“ついてくれば”くらいの感覚です。打つ方では3割、10本塁打は打ちたいですね」

 今年はどんな打撃フォームで、どのような成績を残すのか、今季も西川遥輝から目が離せない。

PROFILE

ベテラン勢4人がチームを去り、チームを引っ張る意欲も十分


にしかわ・はるき●1992年4月16日生まれ。和歌山県出身。179cm75kg。右投左打。智弁和歌山高から11年ドラフト2位で日本ハム入団。12年に1軍デビューし、13年は二塁手のレギュラーに定着するが、左前十字じん帯付着部剥離骨折で長期離脱し定位置を失う。14年は1番打者に定着、守備では5つのポジションを守りながら143試合に出場。盗塁王(43)を獲得してリーグ最多三塁打(13)を放つ活躍を見せた。
Go for2014!〜新シーズンにかける男たち〜

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新たなシーズンに巻き返しや飛躍を誓う選手に迫ったインタビュー企画。

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