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第29回 米田哲也「いまの選手は恵まれ過ぎ、先発投手は完投を目指してほしい」

 

実働22年の現役生活で通算最多の949試合に投げた“ガソリンタンク”。通算350勝も金田正一に次ぐ歴代2位の記録だ。プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー。第29回は米田哲也氏が投げに投げまくった自らの野球人生を振り返る。
取材・構成=大内隆雄、写真=BBM



投げ過ぎると壊れる? 冗談じゃない
投手は完投が仕事、その結果の11完封


今回は、超のつく記録男の登場である。米田哲也氏の、この記録をまず見てほしい。通算最多登板=949、通算最多先発=626、最多連続2ケタ勝利=18。ここまでがプロ野球記録。パ・リーグ通算最多勝利=340、同最多奪三振=3316、同シーズン最多無失点勝利=11(58年)。これだけ投げまくれば、ワースト記録の方もにぎやかになる。通算最多被安打=4561、通算最多失点=1940。ここまでがプロ野球記録。パ・リーグ最多与四球=1430。

まあ、何ともすごい数字のオンパレードである。米田氏が引退した77年の時点では、投手で実働22年と言うのは、気の遠くなるような数字だったが、最近は中日山本昌が今年で実働28年目、DeNA三浦大輔が23年目、元西武巨人ほかの工藤公康氏が29年と、20年超の投手は珍しくなくなったが、彼らの通算成績は、米田氏に遠く及ばない。ということは、米田氏の1シーズン当たりの働きの密度がいかに高かったか、を示している。今なら文句なしの酷使。それを22年続けたのだから、あの有名な“ガソリンタンク”の異名は、異名どころか、米田氏そのものを表していたのである。


 まあ、考えてみると、ようやったなあとは思います。でも、いまならもっとできたと思いますね。何しろ、入団当時の阪急は弱かったからねえ。弱いチームの投手のモチベーションは、「強い相手をいじめたれ」ですからね。これは、優勝を争うチームのエース級と根本から違いますよね。試合が始まると、自分のピッチングよりも「とにかく打ってくれ」ですから(笑)。先に点を取られたら負けなんですから。

 こういう弱いチームの投手の使い方を心得ていたのは、私の2年目(57年)から監督になられた藤本定義さんでした。試合前、「ヨネ、今日は何点でいく? 2点か?」と聞くんです。数字は相手チームにもよるんですが、藤本さんは、私が「2点でいきます」と言ったら、2点を取られるまでベンチで何も私に言わない。任せてくれるんです。で、2点取られると「どうする?」と聞く。私が「まだ行けます」と言うと「よし、行け」。信頼されていると感じますよね。

 藤本さんの2年目にすごい数字を残した? ああ、11完封ですね。そりゃ、点を取られたら終わりなんだから。点を与えずに最後まで投げるしかないでしょう(笑)。当時は、先発は完投するのが当たり前でしたからね。延長に入って207球を投げたこともあります。この球数になりますと、最後は同じ腕の振りでもワンバウンドしちゃうんです。それを防ぐためには、少し上を狙って投げると、いいところに行く。

 こういうことも、練習で球数をほうらんと分からんのです。私はキャンプで、毎日300をほうりました。1ゲーム完投したら150球投げるとすると、300球はその倍です。試合で150球投げたとしても、半分だから、気が楽なんです。まだまだやないか、と。いまは、投げ過ぎると壊れるというので、100球がメドになってますが、100球のピッチャーが150球投げたら壊れますよ、そりゃあ。そうならんようにするためにキャンプで300球投げ込むべきなんです。そうすれば、100球超でビクビクなんてことはなくなるんです。

初勝利の試合で満塁ホームラン!
先発は先発するのが仕事の結果の626先発


 300球投げ込むと1時間かかります。だから、私は受けてくれるキャッチャーに「座ったままでいい」と言いました。いちいち立って返球するのではかわいそうです。それと、いい音が出るように捕ってもらった。これって「オレ、今日速いな」という気分にさせてくれるんです。どんな大投手でもそういうものだと思いますよ。投手は乗せたら、どこまでも行きよるんです。いま、こういう練習しとんのかなあ。

 18年連続2ケタ勝利は、やはり私の誇りですね。ただ、心残りは1年目、9勝に終わったことです。15敗は、阪急は打てないチームなんだから、ある面仕方ないんですが、4回2/3で代えられたことがあったんですよ。まあ、新人だから、我慢せい、ということだったのかもしれませんが、これはねえ……。大映戦で林義一さんと投げ合って2対1で勝っていたんですよ。

貴重なルーキー時代[56年]の1枚。この年は9勝中4完封という力投だった



 私は初勝利のとき(4月11日、対高橋)、すごいことをやっているんですよ。11対3で勝ったんですが、私はプロ2打席目で満塁ホームランを打ったんです。高校時代、50本以上打っていますからね。自信はあったんです。この記録は破れんだろうと思っていたら駒田(徳広内野手、巨人。83年、プロ初打席で満塁本塁打)がやっちゃった。まあ、こっちはピッチャーだからね(米田氏は通算33本塁打。これは投手では歴代3位)。

 626先発は絶対破れない? まあ、いまは・・・

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