週刊ベースボールONLINE

高谷裕亮に密着

 

“打てる捕手”の肩書きを背負い、城島健司が海を渡って以降、固定できていなかった扇の要を担える存在と期待された時期もある。しかし、チャンスをつかみ損ね、いつしかスポットライトが当たることはなくなっていった。決して目立つことはない控え捕手。それでもチームに欠かせない存在であることを前半戦のチーム事情とその働きが証明している。
文=菊池仁志、写真=高塩隆、湯浅芳昭

劇的一打で15年シーズンの幕開け


 715日ぶりの感触を振り返るよりも早く、衝撃の光景が目に飛び込んできた。「うれしかったですね」。二塁ベース上から見えたのはベンチ前で飛び跳ねるナインの姿。指揮官は両手を突き上げて感情をあらわにしていた。開幕間もない4月3日の西武戦(西武プリンス)、途中出場の高谷裕亮が放った13年4月18日の楽天戦(Kスタ宮城)以来の安打が劇的な逆転打となり、開幕5連勝の西武を止めた。



4月3日の西武戦の8回に放った715日ぶりの安打が決勝の逆転二塁打に。ベンチは歓喜に包まれた



 2対3と1点を追う8回二死満塁で打席は回ってきた。西武のマウンドには開幕から4試合連続ホールドで連勝を支えたセットアッパー・増田達至。ベンチには代打の切り札・吉村裕基の選択肢がある中で、「右対右より左の高谷君」(工藤公康監督)とチャンスを与えられた。増田とはオープン戦、二軍戦を通じて初対戦。その鉄則として「ストライクゾーンに来た球を積極的に振っていく」と決めていた。しかし、初球を見逃して1ストライク。甘い変化球に体が反応しなかった。

 今年でプロ入り9年目。シーズンを終えるころには34歳になる。若手と違い、何度も失敗が許される立場ではなくなった。実際に昨季、与えられたチャンスはわずか5打席。プロ入り後初めて1本の安打も打てずにシーズンを終えた。

「打てなかったことよりも、その打席数しか任せてもらえなかったことですよね。試合に出る回数が少ないことを考えなければいけません。例えば、出た試合で『次も』と思わせられるような何かを残せれば、次のチャンスは増えるはずです。そういうアピールが足りなかった」

 シーズンに懸ける思いはいつも変わることはない。しかし、1度のチャンスに懸ける思いは年を追うごとに強くなっている。「1回、2回のチャンスをモノにできるかなんです・・・

この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。

まずは体験!登録後7日間無料

登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。

野球浪漫

野球浪漫

苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング