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ダルビッシュに続く先発投手の補強が鍵になる

 

 今シーズン、ダルビッシュ投手にとってはとても苦しいシーズンになったのではないでしょうか。シーズンが開幕して間もなく寝違えによる故障から始まり、年間を通してベストパフォーマンスを発揮する事が出来ませんでした。所属するテキサス・レンジャーズは1シーズンでのメジャー出場人数の最多記録を更新し、また故障者続出で終わってみれば地区断トツの最下位となりました。

 そんな中、ダルビッシュ投手は3年連続でオールスターに選ばれ、今回初めて登板し、1回を1安打1奪三振の成績を残しました。しかし、オールスター後は右肘の炎症で2度目の離脱。さらにチーム状況の悪化もあり、レンジャーズはダルビッシュ投手の今シーズンの登板を見送りました。しかし、2度の離脱がありながらも3年連続の2桁勝利は達成した事は見事でした。

メジャー3年目となった2014年の成績は、22試合/144.1投球回/防御率3.06/10勝7敗/奪三振182/四死球52/WHIP1.26/rWAR3.2/fWAR4.1



 さて、今回のコラムはダルビッシュ投手が所属するレンジャーズについてお伝えしたいと思います。

 2013年のオフにジョン・ダニエルズGMは、「予算は上限に達している」と述べてから、大きな補強後には目立った動きはせず、デレク・ホランドやマット・ハリソンらの復帰と、ブルペンから先発に転向したタナー・シェッパーズやロビー・ロスらの成長に託す選択をしました。スコット・ベイカー、ジョー・ソーンダースらをマイナー契約で獲得したのですが、補強した選手が思うような働きが出来なかった事で今オフの動向が注目されるところです。

補強予算はあるのか?


 来季に向けてレンジャーズの先発ローテーションが確定している投手はNo.1がダルビッシュ投手、No.2がデレク・ホランドの2人しかおりません。

 そのため3番手以降に計算できる投手を補強する必要があるレンジャーズですが、やはり予算の制限があるため、大きく動くのは難しいのではないかと思います。

 それは2014年の年俸総額によると、1億2890万7134ドルでMLB全体では7番目に大きい規模となっており、また最終的にはインセンティブ(出来高)などの支払いが加わり、2014年の年俸総額は1億3300万ドル程度になったとされているからです。

 数名の選手と大型複数年契約を結んでしまった為にこのような事態が起きてしまいました。大型契約を結んだ選手が結果を出していれば今年も予算を確保出来たと思いますが、このオフの補強は厳しい選択が迫られているのではないでしょうか。

観客動員の減少も影響か?


 このようにすでに予算上の制限に達している状況に、さらに追い打ちをかけているのが、チームの低迷による観客動員の減少です。2013年の317万8,273人(平均38,759人)から、2014年は271万8,733人(平均33,564人)に落ち込んだいます。

 2014年シーズン全体では46万人超の減少、1試合平均では5200人程度減少している計算になります。さらに、低迷した翌年は一般的にチケットの売り行きが悪くなると言われているので、来年の収益にも大きなダメージが及ぶ事も予想されます。

 ジョン・ダニエルズGMは2014年シーズン終了後に、「FA市場で動きはするが、トップクラスのFA選手の争奪戦には動かないと考えている」と述べたのも、このような事情があったのだと思います。

 そんな中、レンジャーズはどのような選手の補強をするのか、私の目線でお伝えしたいと思います。以下の選手を中心に獲得に動くのではないでしょうか。

 コルビー・ルイス(FA)
 ジャスティン・マスターソン(FA)
 イアン・ケネディ(トレード)

●コルビー・ルイス
 皆さんも名前を聞いて思い出される方もいらっしゃると思いますが、元広島の選手です。コルビー・ルイスの2014年は防御率5.18/10勝14敗/奪三振133/WHIP1.52/被打率.304と決して褒められた数字ではありませんでした。

 しかし、評価する点としては29試合170.1回はレンジャーズの先発投手ではいずれも最多の数字を記録しているところです。さらに、オールスター後の成績は13試合86.1回で防御率3.86/奪三振60/WHIP1.23/被打率.251と先発4番手から5番手としては合格点の数字を上げている事もあり、ジョン・ダニエルズGMも、新監督を選んだ直後に、「次はコルビー・ルイスとの再契約が仕事だ」と述べていました。

 2014年のコルビー・ルイスの年俸は200万ドルで、年齢を考えると高額の契約になりにくいのも魅力のため、先発ローテの一員として再契約することになるのではないでしょうか。

●ジャスティン・マスターソン
 2014年のジャスティン・マスターソンは、インディアンスのエースとして期待されながらも、スプリングトレーニング時からの不調(特にコントロールの悪さ)から脱することができず、カージナルス移籍後も十分に働くことはできませんでした。その結果、2014年は防御率5.88/7勝9敗/奪三振116/WHIP1.63/被打率.283と物足りない数字になっています。

 シーズン開幕前は、このオフのFA市場で、シャーザー、レスター、シールズに次ぐような位置づけだったのですが、残念ながら今年のシーズン終了後に彼の評価は下がってしまいました。来季で30歳という年齢であることや、2014年の年俸が976万ドルだったことを考えると、高くはないもののそれなりの金額が必要ではありそうです。唯一、懸念材料があるとすれば、本当に復活して2013年のように193.0回で防御率3.45/14勝10敗/WHIP1.20に近いようなパフォーマンスを2015年に発揮できるかどうかにあるのではないでしょうか。

●イアン・ケネディ
 他にトレードの候補としてはサンディエゴ・パドレスのイアン・ケネディではないでしょうか。イアン・ケネディは2014年に33試合201.0回を投げて、防御率3.63/13勝13敗/奪三振207/WHIP1.29/被打率.250という数字を残しました。来季を30歳で迎えますが、そのシーズン終了後にFAとなるため、トレード期限前にも名前が多く上がった投手でした。

 しかし、結局はトレードされないまま2014年シーズンを終え、FAまで残り1年となっています。パドレスはジョシュ・バーンズGMを解雇した後、あらたにレンジャーズでアシスタント・ゼネラルマネジャーを務めていたA.J.プレラーをGMとして起用しました。そのA.J.プレラーはジョン・ダニエルズのアシスタントを務めていましたので、当然のことながら2人は親しい関係であります。さらに、A.J.プレラーはレンジャーズでファームから選手の昇格・降格を決定する部門を担当していたため、レンジャーズのファームにいるプロスペクトを詳しく把握しています。そのためチームの再建が必要なパドレスがイアン・ケネディを放出し、レンジャーズがプロスペクトを交換要員としてトレードが成立するのではないかと思います。

 レンジャーズがイアン・ケネディを獲得すれば先発ローテの3番手までは安定することが期待できるため、来季の巻き返しには大きな戦力アップとなります。またイアン・ケネディは2014年の年俸が610万ドルで、2015年が年俸調停の3年目となるため年俸は800万ドルから1000万ドル程度に上昇するものの、FA投手よりは安くなると予想されるので、1年だけの負担ですむというメリットもあるのではないでしょうか。

 どちらにしても先発投手の補強なしには、激戦区になりつつあるア・リーグの西地区を、レンジャーズが勝ち抜くことは厳しくなるのではないでしょうか。レンジャーズの先発投手の補強動向は、ア・リーグ西地区の補強にも影響をあたえることは確実で、思い切った補強に踏み切るのか、それとも値段を抑えた小規模の補強になるのか今後注目したいポイントです。

マイナーで2年連続40本塁打を記録している有望株


 2014年のレンジャーズは故障者が続出した影響で、多くの新人選手がメジャーデビューを果たしました。その中でも私が注目をしたい選手は、MLB.comとBaseball Americaに、シーズン終了時点で、トッププロスペクトの評価を受けているジョーイ・ギャロ(Joey Gallo)内野手です。

 ジョーイ・ギャロは2012年ドラフト1巡目補足・全体39番目)でテキサス・レンジャーズに指名されて、高校からプロ入りした20歳の内野手です。

 右投げ左打ちでポジションはサードで、肩は強いものの、足が平均レベルを下回るため、守備範囲は広くないと我々スカウトは評価をしています。守備面では上記のように課題があるとされているものの、我々スカウトが高く評価をしている打撃を伸ばしていった方が彼にとっても良い方向にいくのではないかと思っております。2012年のドラフト後は、ルーキーリーグと1Aの2つのレベルの59試合206打数で打率.272/本塁打22/打点52/OPS1.072の数字を残すなど、彼の持っているパワーをさっそく発揮し、チーム内のトップ10プロスペクトの評価を得ました。

 そして2013年からがプロとして初のフルシーズンでしたが、ルーキーリーグと1Aの2つのレベル通算では111試合411打数で打率.251/本塁打40/打点88/OPS.961と、やや粗さが目につくものの、マイナーリーグ全体でトップとなる40本塁打を記録し、パワーを十分に発揮しさらに評価を高め、2014年の開幕前の評価ではレンジャーズ内でNo.5、MLB全体でも92位評価を受けることになりました。

 さらに2014年のパフォーマンスが素晴らしかったため、シーズン終了時点で、テキサス・レンジャーズのNo.1プロスペクトとしての評価だけでなく、MLB全体でも6位評価を受けるに至りました。2014年はAとAAの2つのカテゴリー通算の126試合439打数で打率.271/本塁打42/打点106/OPS1.009を記録しています。それに加えて、オールスターフューチャー・ゲームにも出場し、本塁打を打ち、MVPにも輝いています。

 2014年のマイナーリーグ全体で30本塁打・100打点以上を記録した選手は6人しかいませんが、そのうちの1人がジョーイ・ギャロです。そしてこのジョーイ・ギャロの42本塁打は、その6人の中でもカブスのトッププロスペクトであるクリス・ブライアントの43本塁打に次ぐ数字で、2014年のマイナーリーグで屈指の長打力を持っていることを2年連続で証明したのではないでしょうか。

 また、彼の打力は元々評価をされていたのですが、今シーズンに入ってさらに評価を高めた理由の1つが四球を選べるようになったことではないでしょうか。

 2013年は411打数で三振172個と非常に高い割合で、四球は50個でした。しかし、2014年は439打数で三振179個の割合は変わらないものの、四球の数は87個に増加しています。私が書いた彼の今年の報告書には「2013年に比べ三振が多く荒削りさはまだ残るものの、四球を選ぶことができるようになり、選球眼や打席での我慢強さという面での成長が認められた」と報告をしました。

 我々スカウトは何試合も選手を視察する時に、このような成長過程も把握し球団に報告をする事がとても重要になります。チームの状況や本人の故障の有無に左右されますが、早ければ2015年シーズン終盤、遅くとも2016年にはMLBでその姿を見ることになるのではないでしょうか。

 まずは投手補強を重点ポイントにおき、今オフのレンジャーズは「予算の壁」をどのように打開し補強をしていくのか注目をしたいです。

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。メンタル・フィジカルのバランスの良い選手が好み。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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