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メジャーに行ってから評価が上がった和田投手

 

5年連続の最下位から脱出出来るか?


 和田毅投手は2012年にオリオールズに入団するも、スプリングトレーニングで左肘の故障が見つかり、結局オリオールズでの2年間は手術とリハビリに時間を費やしました。2014年、シカゴ・カブスとマイナー契約をしメジャーに昇格後は13試合に登板し4勝4敗の成績を残しました。今回のコラムは和田投手が所属するシカゴ・カブスについてお伝えをしたいと思います。

アメリカに渡って3年目の今季、メジャー昇格を果たした和田投手。8月24日のオリオールズ戦では、6回までノーヒットノーランの好投も見せた



 先日ジョー・マドンが電撃的に監督に就任したことにより、さらに注目を集め始めているシカゴ・カブス。大幅な再建モードにいよいよ終わりを告げて、勝負する時が近づきつつあるのがシカゴ・カブスではないでしょうか。

 シカゴ・カブスの2014年の年俸総額はESPNによると7354万6357ドルで、MLB全体で28番目の規模となっています。下にはマイアミ・マーリンズとヒューストン・アストロズしかいません。2010年から5年連続の最下位ですが、いまだファンからの支持されているチームです。

 本拠地のリグレー・フィールドはフェンウェイ・パークに次ぐ2番目の古い球場ということもあり、収容人数が4万1,159人と制限があるにも関わらず、2014年は265万2,113人(平均3万2,742人)を動員し、MLB全体で11番目となっています。2年連続で地区優勝した2008年の330万人(平均4万743人)から比較すると70万人余りが減少しているものの、元々人気があるチームであることや、シカゴは271万人で全米第3位の人口を誇るマーケットでもあることを考えれば、成績さえ向上すれば、観客動員が増えていくことは確実なのです。

 また過去に年俸総額は2010年に1億4435万9000ドルに達したこともある上に、その後MLBからの全国中継の放映権料の分配金も加わっていますので、1億ドル近い資金的な余裕があるとも考えられます。このような資金力があるからこそ、オフの田中将大投手の争奪戦にも参加し、1億ドル以上の契約を提示することができました。

補強予算も着実に増加


 現在の放映権の契約はコムキャスト・スポーツネット・シカゴと結んでいますが、それが2019年終了します。そのカブスに対して多くの放送局が15年から30年の長期契約で、金額は数十億ドル(数千億円)にのぼる契約になる可能性があるとも報じています。

 またBaseball Operationの社長を務めるセオ・エプスタイン社長は、その契約は“野球運営部門にとってのATMになる”と考えているとシカゴ・サンタイムズは伝えています。つまり、必要であればいつでも使えるような資金になるということです。セオ・エプスタイン社長はそのテレビ契約に関して、「テレビ契約はマジック・バレット(魔法の弾丸)になる。そのパラダイムシフトは私たちを全く新しいレベルに引き上げてくれる」と語り、期待しています。

 このような年俸総額での余裕に加えて、将来的なテレビ契約による収入増が見込め、さらに期待されるプロスペクトが次々とMLBに昇格間近で戦力が整いつつありますので、リーダーシップのある大物選手の獲得に動くことが予想されているカブスです。

 シカゴ・カブスから、すでにFAとなる予定だったジェイソン・ハメルやエミリオ・ボニファシオらをトレードに出したこともあり、FAとなる主な選手はカルロス・ビラヌエバとなっています。

 そのシカゴ・カブスが2015年に抱えている確定した契約は以下のとおりとなっています。

1. エドウィン・ジャクソン(31歳・SP)
$11,000,000
2. スターリン・カストロ(25歳・SS)
$6,000,000
3. アンソニー・リゾ(25歳・1B)
$5,000,000
4. 和田毅(34歳・SP)
$4,000,000
5. ホルヘ・ソレア(23歳・RF)
$2,000,000
6. ライアン・スウィーニー(30歳・OF)
$1,500,000
7. ジェイコブ・ターナー(24歳・SP)
$1,000,000

 この他に年俸調停権を有する選手の年俸が加わりますが、トラビス・ウッドが500万ドル前後、ジェイク・アリエッタが400万ドル前後に増えることなど目立ちますが、全体的には2000万ドルから2500万ドルの間におさまる見込みです。そのためそれらとMLB最低年俸の選手の金額を加えても6000万ドル超にしかならない見込みです。

 シーズン中に年俸600万ドルのジェイソン・ハメル、年俸534万ドルで2015年には900万ドルを超えると予想されていたジェフ・サマージャを放出しています。またシカゴ・カブスの野手のプロスペクト選手は非常に高い評価を受けている上に、投手と違い、毎日試合に出場出来る事も、試合を中継するメディアにとって魅力的で、放映権の争奪戦をヒートアップさせている一因となっています。

 攻守の両面でMLBトップクラスの評価を受けてきたプロスペクトたちがポジションを埋め始めるなど、攻守両面でのバックアップが期待できます。さらに、フロントがチーム強化のために大金を注ぐ準備をしています。またフロントの人材もレッドソックスで実績のあるセオ・エプスタイン社長とジェド・ホイヤーGMのコンビが顔を並べ、ジョー・マドンという若い選手を育て上げ、使いこなすことに長ける名将が加わりました。

 この状況を見れば、シカゴ・カブスの今後は明るいと考える選手が多いことは、全く不思議なことではありません。セオ・エプスタイン社長は、ジョー・マドンを監督に迎える前から、外部から人材を獲得して戦力を整え、2015年は「再建」ではなく、地区優勝を目指して戦うとの意志を表明していました。

 セオ・エプスタインは選手をスカウティングし、才能ある選手を獲得すること、そしてそれらの選手を育成するシステムを構築する手腕が高く評価されているのですが、このオフには補強に動いて、来季から勝負をかけていくと明らかにしています。

 その決断をした理由として、セオ・エプスタインはチームに若い才能のあふれる選手が十分に育ってきたからだと球団首脳が判断をしているからではないでしょうか。

投手の補強次第では世界一を争えるチームに


 シカゴ・カブスの野手はプロスペクトたちで埋めつくされている状態のため、投手中心の補強で動くのではないでしょうか。カブスは来季のローテとしてジェイク・アリエッタ(防2.53/10勝5敗/WHIP0.99)、カイル・ヘンドリックス(防2.46/7勝2敗/WHIP1.08)が確実で、トラビス・ウッド(防5.03/8勝13 敗/WHIP1.53)、エドウィン・ジャクソン(防6.33/6勝15敗/WHIP1.64)、和田毅(防3.25/4勝4敗/WHIP1.24)らが、補強次第で外れることになると予想されています。

 カブスの2014年の投手陣では、先発ローテは脆弱だったのですが、リリーフ陣はそれなりに充実し、ブルペンの防御率は3.61で両リーグ15位と中間に位置するようになりました。

 シーズン開幕当初はホセ・ベラスなどをクローザーとして試したものの、機能しませんでしたが、最終的にはヘクター・ロンドンに定着しました。他にはペドロ・ストロープ(防2.21/2セーブ/WHIP1.07)、ニールラミレス(防1.44/3セーブ/WHIP1.05)らの右のリリーフに、左のリリーフとしてウェズリー・ライト(防御率3.17/WHIP1.39)もまずまずの成績を残すなど、ある程度の計算ができる状態となりました。

 シカゴ・カブスは経験のあるクローザーや左のリリーフを補強をすれば、地区優勝という目標を達成する可能性が非常に高いと思います。和田投手も、アメリカに行き手術をしてからの方が日本にいた時よりも球速が増した事で評価は上がっているのも現実です。現在の和田投手は先発5番目に入っていますが、来年のチーム状況によっては4番手に入る可能性もあると予想しております。

 また、カブスにとってこのオフにFA選手の獲得に動くメリットが大きい理由の1つが、クオリファイングオファーを拒否した選手を獲得しても、1巡目の指名権がプロテクトされることです。それに加えて、獲得の優先順位が一番高いであろうジョン・レスターはシーズン中に移籍しているため、クオリファイングオファーの対象外となり、ドラフト指名権の問題がありません。

 そのため仮に大物FA選手を獲得し、さらにクオリファイングオファーを拒否することが確実なジェームズ・シールズなどの選手を獲得しても、失うのは2巡目のドラフト指名権となり、その影響を軽減することができます。このような状況で、しかも資金面にも余裕があるため、シカゴ・カブスにとっては絶好のチャンスが訪れていると考えられる2014年シーズンオフです。

荒削りも長打力が魅力のカブス打線


 アンソニー・リゾはナ・リーグ2位の32本塁打を記録する長打力を発揮した一方で、打率.286とOPS.913とレベルの高い数字を残しています。またスターリン・カストロは守備力では飛び抜けていませんが、ショートをポジションとするプレーヤーの中ではトップクラスの攻撃力を持っています。打率.292は両リーグ1位、長打率.438とOPS.743は同3位、本塁打は同6位となるなど、このオフのFAの目玉とされるハンリー・ラミレスと同等以上の成績を残しています。この2人はすでにオールスタープレーヤとなるなど、チームの中心となっていく存在で、カブスはすでに両者と長期契約を結んでいます。

 アンソニー・リゾは29歳(2019年)まで5年4300万ドルに加えて2020年がチームオプション、スターリン・カストロは29歳(2019年)まで5年3500万ドルに、2021年までのチームオプションという契約を結んでいるため、これから先の5年から7年はチームがコントロールできる状態です。

 捕手のウェリントン・カスティーヨも110試合の出場で本塁打は2桁の13本と長打力があり、盗塁阻止率も.329と高い数字です。この盗塁阻止率はMLBで100試合以上出場している捕手の中で5番目のもので、強肩も持ち合わせています。またサードのルイス・バルブエナも2016年までチームの管理下における選手で、打率.249/16本塁打/打点51/OPS.776という成績でしたが、MLB全体の三塁手の中では本塁打数が10位、OPSは7位と上位の数字となっています。

 さらにプロスペクトが、ラインナップに加わりつつあります。2014年にはMLB全体でも高い評価を受けていたハビアー・バエズ、ホルヘ・ソレア、アリスメンディ・アルカンタラがメジャーデビューを果たしています。その中でも私が2015に年期待している選手はハビアー・バエズです。打率は低く、粗削りな感は否めませんが、52試合で9本塁打を放ち、その長打力が非凡であることはすでに証明しています。また守備の面でも、マイナーではショートとしてプレーしていましたが、すでにセカンドとサードもこなせるようになり、チームの布陣にあわせて柔軟にこなせるのもユーティリティープレーヤーなのも彼の魅力ではないでしょうか。

チームリーダーの重要性


 以上のように、メジャーリーグ屈指の才能をほこる若い選手が揃い、将来への希望があふれるシカゴ・カブスですが、不安材料がないわけではありません。

 MLB全体からスター候補として期待された選手が、才能を開花させずに埋もれてしまうことが少なくないからです。特にカブスの若い選手は、長打力はあるものの、打率が低く、三振が多い、フリースインガーの傾向が強い選手が多いため、その危険性も多分に潜んでいます。そのような問題をクリアしてチームとして成熟していくために必要なことが、「若い選手を一流に育てることができる指導者」と、「クラブハウスで模範となり、また勝つことを知り、なおかつリーダーシップのあるベテラン選手」を獲得することです。

 それはどのチームも編成上で非常に重要な位置付けとして考えております。そこでシカゴ・カブスは、レイズで若い選手を導き、クラブハウスの雰囲気をつくり上げることにも長けているジョー・マドンを獲得した事により一つの不安を解消出来たのではないでしょうか。次に残される補強ポイントは、模範を示し、「勝利」を植え付けることができるリーダーシップにあふれる選手の補強ではないでしょうか。

 シカゴ・カブスがFA市場で求める選手は、プレーのパフォーマンスが良いことも重要ですが、クラブハウスで精神的な柱となり得るプレーヤーとなります。カブスは経済的な面での不安材料も少ない状態でこのオフを迎え、一気に再建モードを脱して、優勝を目指すという方向にシフトすることを決断したセオ・エプスタイン社長とジェド・ホイヤーGM。シカゴ・カブスの2015年シーズンが待ち遠しいです。

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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