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なぜ藤川球児投手はレンジャーズで評価されなかったのか?

 

米大リーグ・レンジャーズからFAとなった藤川球児投手。今後の去就が注目される(Getty Images)



明らかに力は落ちていた


 2013年に阪神タイガースからシカゴ・カブスに移籍した藤川球児投手(34)。しかしメジャー登板を果たすも2013年の5月には右前腕部を痛めトミー・ジョン手術を行いました。2014年も故障者リスト入りしたままFAとなり2014年12月にテキサス・レンジャーズと1年100万ドルでのメジャー契約。しかしキャンプ中に故障してしまい、メジャーに昇格するのが5月にずれ込んでしまいました。

 今年の初登板では1イニングを9球で抑えたものの、次の登板では本塁打を浴びるなど3失点し、わずか2/3イニングで降板しました。そのわずかに2回の登板でレンジャーズのジョン・ダニエルズGMは、「現在の状態ではメジャーでのブルペンでは厳しい」と判断し、40人枠から外す判断をしました。

 ダニエルズGMは「我々が想像をしている藤川ではない。現状の状態では戦力にならない」とコメントを出しておりました。藤川投手の契約上、マイナー降格させるためには本人の同意が必要だったのですが、本人がそれを受け入れない姿勢を示したとされ、引退か日本球界への復帰の選択になるのではないでしょうか?

 では、日本球界に復帰するとするなら気になるのが、藤川投手の状態はどうなっているのか? ということになります。わずか2試合で戦力外通告をされてしまった藤川投手。今回のコラムはレンジャーズでの2試合での登板内容と戦力として評価をしてもらえなかった理由について、私なりの評価をお伝えしたいと思います。

2試合の登板で判断は出来るのか?


 1試合目は1イニングで9球を投げてストライクが8球(88.9%)で、ノーヒットに抑えたもののアウトはいずれもフライでした。そして2試合目は2/3イニングで17球を投げてストライクは9球(52.9%)と低下し、三振を1つ奪ったものの、本塁打、被安打1、与死球1と安定せず3失点(自責点3)し、防御率16.20/WHIP1.20となりました。取ったアウト5つのうち4つがフライアウトでゴロアウトが1つもなく、三振が1つしか奪えませんでした。

 私はこの「アウトの取り方」に40人枠から外された理由ではないかと考えます。レンジャーズの本拠地であるグローブライフ・パーク・イン・アーリントンは打者有利の球場で、フライボールが多いことは本塁打につながりやすく、あまり好まれる傾向ではないからです。我々スカウトはそのような球場の特性も加味して選手を評価しています。

 また三振を1つ奪っているものの、見逃しの三振によるもので、空振りを奪っての三振ではありません。さらにこの2試合で投げた26球のうち空振りは1回しかありません。ブルペンの投手に求められるものは「空振りが取れる」という事も必須条件になってきます。

 その藤川投手の今シーズン全27球の球種、球速、結果については以下のとおりとなっています。

 ・フォーシームを15球
 ・スプリットを7球
 ・カーブを4球

 フォーシームは最速が145キロで、平均144キロ。スプリットは最速が132キロで、平均130キロ。カーブは最速が121キロ、平均が120キロとなっています。

 空振りを奪ったのはスプリットのはずですが、球速があまり速くないのと、動きが鈍かったためか、メジャーリーグの球速や球種の判定システムではチェンジアップに分類されていました。(ただ藤川投手の持ち球からしてチェンジアップではなくスプリットと考えられるため、上記ではすべてスプリットとしてカウントしていました)。

 フォーシームの最速が145キロ、平均が144キロという数字を見ると、かつての姿を知っている人にとっては寂しい数字に映るのではないかと思います。150〜152キロでも打ちごろのスピードと言われるメジャーで、この数字は厳しいものがあったと思います。それを補うだけの動きやキレがあれば良いのですが、フォーシームでの空振りがありませんので、その辺りも今回の判断に繋がったと考えられます。

日本復帰後に全盛期のストレートは見られるか…


 さらに球速の面でシビアなことを言えば、これはアメリカの堅い球速の出やすいマウンドでの数字です。今季ヤンキースから広島に移籍をした黒田博樹投手は年齢による影響の可能性もあると思いますが、日本のマウンドでの球速はアメリカの時よりも5から8キロ程度落ちているそうです。

 日本にやってくる外国人投手もバラつきはあるものの、4キロから7キロくらい球速が落ちることが多いため、藤川投手が日本のマウンドに立った場合には、140キロちょっと、130キロ台の球速になる可能性があると思います。

 メジャーリーグ公式球に合わないという問題もあることは考えられるため、下落幅は小さくなるかもしれませんが、どちらにしてもかつてのようなファストボールを再び目にできる可能性は低いのではないでしょうか? 今シーズン途中に日本に戻ってきて、どれだけマウンドとボールにアジャストできるかも不安が残ります。

 阪神タイガースが獲得を検討しているとの報道がありますが、日本でマウンドに立つとするならば、どのような姿を見せてくれるのか? もし阪神に復帰することになるのであれば、熱狂的な阪神ファンの期待に応えられる事が出来るのか、注目したいです。
著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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