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イチロー、3000本安打に向けての今後の課題は?

 

日本時間16日(午前8時10分試合開始)に、昨年までのチームメイト田中将大と初対決を迎えるイチロー(Getty Images)



来季3000本安打達成のためにも今季の評価を高めたい


 2014年、ニューヨーク・ヤンキースからFAとなり、2015年、フロリダ・マーリンズと契約をしたイチロー選手。6月15日終了時点で積み重ねた安打数は2882で、現役の選手ではヤンキースのアレックス・ロドリゲスの2986安打に次ぐ2位。メジャーリーグの歴代でも40位にランクされるまで安打数を伸ばし、また通算打率は.317と高い数字を残し、メディアから殿堂入りは間違いないと評価されているイチロー選手です。

 私も含めて日本の多くの野球ファンの願うところは長いメジャーの歴史でもわずかに30人しかいない3000本安打をイチローが達成してくれることではないでしょうか。

 6月以降もこれまでのペースで試合に出続けた、同様のペースで安打を打った場合でも、年間105安打前後という安打数ではないかとアメリカメディアは取り上げています。もし、その試算どおりの出場機会と打率で推移して場合には、今季終了時点の通算安打数は2950安打前後となり、3000本安打まで50本近く足りないことになります。

 今後の出場機会に関しては外野手のイエリッチが離脱した際には増えたものの、復帰後はたまに先発出場するにとどまり基本は代打となっているのが現状です。

 マーリンズはシーズン開幕前に期待されたようなパフォーマンスを発揮できていませんが、チームが低迷し若手重視の色合いが強くなるほどベテランの出場機会は減っていくのではないでしょうか。そのため故障者が出ることによって出場機会が増えない限り、イチロー選手が今季中の3000本安打を達成することは難しいと思います。そうなると来季の契約をどこかの球団と結ぶ必要があるのですが、その行方を左右するのが今季の成績(評価)となります。

 イチロー選手の成績は60試合135打数で、打率.281/本塁打1/打点11/出塁率.333/長打率.333/OPS.667/盗塁5となっています。打率は悪くなく、あまり四球を選ばないタイプでありますが、これまでに比較すれば出塁率と打率の差も大きく、四球を多めに選んでいるため悪くはないと思います。

盗塁の成功率も契約延長のカギになる


 ただ、細かく成績を見ていくと気になる点がないわけではありません。かつてのような打率3割、長打率4割超に達していないことからも、以前のような打撃ではないことがわかるわけですが、気になるのが盗塁の成功率が極めて低く、さらに安打のうち長打(二塁打・三塁打・本塁打)の占める割合が低いことです。

 イチロー選手は本塁打の数こそ多くならないものの走力があるため、200本安打を継続していた頃には二塁打・三塁打の数も多く、安打のうち5本から4本のうち1本は長打になっていました。

 年々、その割合は減ってはいたのですが、今季は37本の安打の内、二塁打0本、三塁打2本、本塁打1本となるなど、わずかかに3本しか長打がなく、安打の8.1%しか長打になっていません。外野の両翼に求められるのは守備面での貢献もさることながら、攻撃面での得点への貢献となりますので、このままの状態が続けば、来季に向けて不安視される材料となるのではないかと思います。

 そして私が最も気になるのが盗塁成功率の低さです。代打だけでなく代走での出場もあるイチロー選手ですが、今季は9回盗塁を試みで4回刺されているため、成功率44.4%と極めて低い数字になっているのです。

 一般的に盗塁成功率が75%を切ると、得点する上で効率が悪くなるとされていますので、50%を切ってしまうと、逆効果になってしまいます。イチロー選手の2014年までのメジャーでの盗塁成功率は81.6%と非常に高い数字でしたが、今年は母数が少ないとは言え、イチローらしくない成績だと思います。

 これから盗塁機会が増えれば数字が良くなっていく可能性はあるものの、現時点では今後に不安が残る数字となっているのは事実です。

 打撃面での良い点をあげるとすれば、四球を選ぶ割合が2002年のキャリアハイ(9.3%)に次ぐ、7.9%というペースで四球を選んでいることと、昨シーズン一気に増えた三振の割合が17.7%から9.5%に減ったことです(いずれも5月末時点)。

 ただ、それらの数字がイチローのストロングポイントの1つである走塁面での低迷と、長打が極端に少ないことを補うとは言いがたいことも否定できません。

走塁、守備力が評価の基準に


 イチロー選手の強みは打撃と走塁だけではなく、10年連続ゴールドグラブ賞を獲得した守備も高い評価を受けてきましたが、気になる今シーズンはどうでしょうか?

 外野手全体では、5月末日時点で守備防御点(DRS)は+1で160人中68位、アルティメット・ゾーン・レイティング(UZR)は-0.9で160名中85位となっています。守備のこのようなスタッツには正確に実力が反映されていないとの批判の声もあるものの、一定の目安とはなります。

 これらの数字を見る限りでは、かつてのような圧倒的な守備力はないものの、センターをメインとする守備力が高い選手も含めた外野手全体でも、平均前後のレベルを保っていると考えて良いと思います。しかし、逆に言えば守備面での貢献がかつてのように絶大ではないことにもなりますので、42歳で来季を迎えることになることを考えれば、やはり打撃と走塁での貢献度を高くする必要があるのではないでしょうか。

 今後は出場機会も限定され、調整が難しい中で結果を求められることになりますが、イチロー選手は必ずメジャーリーグで3000本安打を達成してくれることと期待しています。
著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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